ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第30回課題(2020.6.20)

練習問題30-2

Rīdētur, chordā quī semper oberrat  eādem.

Hor.A.P.356
ホラーティウス「詩論」

Horace: Ars Poetica

 

【学習課題】

代名詞2・その他 関係代名詞

 

【語彙と文法解析】

rīdeō -ēre(不定法)rīsī(完了形)rīsum(目的分詞), intr(自動詞), tr(他動詞) ① 笑う.(以下略)
rīdētur は 第2変化動詞 rīdeō の直接法・受動態で、三人称・単数・現在。

chorda -ae, f ① (弦楽器に用いる)腸線.② ひも, 綱 (以下略)
chordā は 第1変化動詞 chorda の女性・単数・奪格。

quī quae(女性)quod(中性), pron(代名詞), adj(形容詞)
Ⅰ (adj interrog 疑問詞) ① どの, 何の, どのような ② (感嘆)何という. Ⅱ (pron relat 関係代名詞)Ⓐ (+ind 接続法)① (事実関係)...するところの(人・もの)(以下略)
quī は関係代名詞 quī の男性・単数または複数・主格。ここでは単数。

semper adv 常に, いつでも

oberrō -āre(不定法)-āvī(完了形)-ātum(目的分詞), intr(自動詞) ① 歩きまわる, ぶらつく.(中略)④ 誤る, 間違える.
oberrat は 第1変化動詞 oberrō の直説法・能動態で、三人称・単数・現在。

īdem(男性)eadem(女性)idem(中性), pron(代名詞), adj demonstr(指示形容詞)Ⅰ (adj)同じ, 同一の, 同様の.Ⅱ (pron)同じ人[もの], 同様のもの
eādem は指示形容詞 īdem の女性・単数・奪格で、chordāにかかる。

 

【逐語訳】

Rīdētur(笑われる), chordā(弦において)quī(〜のところの者は)semper(いつも)oberrat(間違える)eādem(同じ).

 

【訳例】

いつもちょうど同じ弦で間違える者は笑われる。

 

(古典の鑑賞)

ホラーティウス「書簡詩」第二巻第三歌(詩論)の一節でした。今回は『アリストテレース 詩学ホラーティウス 詩論』(松本仁助・岡道男訳、岩波文庫)を図書館で借りてきて読んでみました。また、鈴木訳、高橋訳も手元にあったので、参考にしました。

「詩論」の名で知られている(らしい)この作品は、上記の文庫の前半のアリストテレスによる「詩学(試作の技術について)」のような「論」ではなく、書簡の形式で書かれていて、鈴木氏も、「その内容は教訓めいた所があると思えば、文学史となり、更に詩形の吟味から、人生の描写へと唐突に変わって行く。その乱雑な文章から、全編を貫く主張を求めるならば、文学−あるいは広く文芸−に対する「穏健中立」な思想であろう」と解説されていました。

もともと poiēsis(詩作)の語源であるギリシャ古語の「ポイエーシス」は、ものを「作ること」の意だったと聞くと、なるほど、ホラーティウスの平明な語り口による、詩作論、演劇論、作家論が、詩や劇を愛する人々だけでなく、ものづくりに携わる人、また、その示唆に富んだ人生訓に魅了された一般の読者など、後世に与えた影響の大きさも、わかるような気がいたします。

「詩論」は大きくわけて、(1)詩作の一般原則、(2)演劇に関するメモ、(3)作家論から構成され、高橋訳、鈴木訳には、更に内容に即した区分(小見出し)が挿入されています。

今回の課題文は、作家論の後段、高橋訳では「許容の限界」、鈴木訳では「作家の誤りについて」の文脈のくだりでした。以前、フジ子・ヘミングが何かで「少しくらい間違ったっていいのよ。機械じゃあるまいし」と語ったと伝えられていますが、一流のピアニストならではの逆説で、ホラーティウスの「許容の限界」を示した名言のように、私には思えました。

 

第27回課題(2020.5.30)

練習問題27-3

Mihi quidem Scīpiō, quamquam est subitō ēreptus, vīvit tamen semperque vīvet.

(ミヒ クイデム スキーピオー、クアムクアム エスト スビトー エーレプトゥス、ウィーウィト タメン センペルクゥェ ウィーウェト)

Cic.Amic.102
キケロー「友情について」

 

【学習課題】

動詞4 直接法・受動態(2)完了・未来完了・過去完了

 

【語彙と文法解析】

ego pron pers(人称代名詞)(一人称)私.
mihi は人称代名詞 ego の通性・一人称・与格。ここでは判断者の与格で、〜にとって。

quidem adv 確かに, 全く

Scīpiō -ōnis, m スキーピオー《Cornelia 氏族に属する家名;特に (1) P. Cornelius ~ Africanus(Major), 第2次 Poeni 戦争で Hannibal を破った(前236‐?184).(2) P. Cornelius ~ Aemilianus Africanus(Minor), 第3次 Poeni 戦争で Carthago を滅ぼした(前185?‐129)》.

quamquam, quan- conj(接続詞) ① ...とはいえ, ...にもかかわらず ② しかしながら, それにもかかわらず.

subitō adv(副詞)(abl)① 突然(に), 不意に.② すぐに, 短時間で.

ēripiō -pere(不定法)-ripuī(完了形)-reptum(目的分詞), tr(他動詞)① 引きはがす, 引きちぎる 〈alqm [alqd](ex [a, de])re;alqd+dat〉.② 奪い取る, ひったくる 〈alci alqd;alqd ab alqo〉.(以下略)
est ēreptus で ēripiōの 直説法・受動態・完了形となる。

vīvō -ere(不定法)vixī(完了形)victum(目的分詞), intr(自動詞) ① 生きている, 生きる (以下略)
vīvit は 第3変化動詞 vīvō の直説法・能動態で、三人称・単数・現在。
vīvet は 第3変化動詞 vīvō の直説法・能動態で、三人称・単数・未来。

tamen adv しかし, にもかかわらず;それでも, やはり

semper adv 常に, いつでも

 

【逐語訳】

Mihi(私にとって)quidem(確かに)Scīpiō(スキーピオーは), quamquam(〜にもかかわらず)est subitō(突然)ēreptus(奪われた), vīvit(彼は生きている) tamen(やはり)semperque(常に)vīvet(生きているだろう).

 

【訳例】

確かにスキーピオーは私にとって突然奪われたのだが、しかしながら彼は今も生きているし、やはり常に生きているだろう(永遠に生き続けるだろう)。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「友情について」の一節でした。今回は、『友情について』(中務哲郎訳、岩波文庫)を図書館で借りてきて読んでみました。

「友情について」の設定は129年。小スキーピオーの突然の死後まもなく、親友ラエリウスが娘婿のファンニウスとスカエウォラから懇願されて、思うところを語るという作品です。ところで、先日取り組んだ課題の作品「スキーピオーの夢」の設定も129年。こちらは、小スキーピオーの死の直前でした。 現代の私たちにさえ、否が応でも印象づけられるこの年。キケローは、ここから「内乱の世紀」が始まった、スキーピオーもプブリウス・ナーシーカ(138年の執政官。小スキーピオーの従兄弟)も、グラックス兄弟の仲間や親族たちに暗殺されたのだ、と叫んでいるかのようです。

「ラエリウス・友情について」はキケロー最晩年の44年、一連の哲学的著作の後、「カトー・老年について」とともに著されたとのこと。題名の通り「友情論」についての作品ではありますが、キケローの問題意識は、理想国家ローマ共和制の瓦解を眼前にして、祖国に弓を引くような者に、どうして友情を口実として追随し、進んで祖国への反逆に手を貸すようなことになるのか。仲間や親族が信義に悖ること、誓いに背くこと、国家に敵対することを求めたとき、これを友として正すことができないような「友情」とは何なのか、という点にあったのではと思えてきます。

もちろん、実際の政治的課題に対しては、改革派の政策が一定の合理性を持っていたとしても、元老院やそれを支える名門貴族を中心とする大地主の利害の調整がうまくいかず、既得権益への不用意な介入が、国家への反逆として捉えられる面もあるので、単に皮相な友情によって改革勢力が糾合されていったわけでもないでしょうけど・・・。

ともあれ、キケローは、「友情について」の後、倫理学上の大作「義務について」を書き上げ、共和制の下での理想の市民のあり方を示したのち、翌43年、自殺に追い込まれ、ローマは元首政(プリンキパトゥス)に移行していきます。

ところで、元首政ローマの初代皇帝アウグストゥスは、キケローを最終的には裏切り、その死に加担したわけですが、実は、この元首政こそが、キケローの理想の国家像だったという解説を何かで読んで、歴史の皮肉を感じてしまいました。

内乱の世紀の下で、歴史の原動力はどこにあるのかを見つめたキケローの(単なる「講義室の哲学者」ではない)慧眼と言うべきなのでしょうね。

 

第24回課題(2020.5.9)

練習問題24-4

Dēsine fāta deum flectī spērāre precandō.

(デーシネ ファータ デウム フレクティー スペーラーレ プレカンドー)

Verg.Aen.6.376
ウェルギリウスアエネーイス

P. VERGILI MARONIS AENEIDOS LIBER SEXTVS

 

【学習課題】

 動名詞

 

【語彙と文法解析】

dēsinō -ere(不定法)-siī(完了形)-situm(目的分詞), intr(自動詞), tr(他動詞) ① 中止する, やめる 〈(in)re;alcis rei;+inf〉(以下略)
dēsine は 第3変化動詞 dēsinō の命令法で、二人称・単数・現在。

fātum -ī, n ① 神託, 予言.② 神意, 天命.③ 天寿を全うすること, 自然死
④ 運命, 宿命.(以下略)
fāta は 第2変化名詞 fātum の中性・複数・主格または対格。ここでは対格。

deus -ī, m ① 神 (以下略)
deum は 第2変化名詞 deus の男性・単数・対格または複数・属格。

flectō -ere(不定法)flexī(完了形)flexum(目的分詞), tr(他動詞), intr(自動詞) Ⅰ (tr)① 曲げる.② 変える 〈alqm [alqd]〉.(中略) Ⅱ (intr)向かう, 行く, 進む 〈in [ad] alqd〉.
flectī は第3変化動詞 flectō の不定法・受動態で、現在形。

spērō -āre(不定法)-āvī(完了形)-ātum(目的分詞), tr(他動詞)(intr 自動詞) ① 希望する, 期待する 〈abs;alqd;+acc c.inf;ut+subj〉.(以下略)
spērāre は第1変化動詞 spērō の不定法・能動態・現在または命令法・受動態の二人称・単数・現在。ここでは不定法。

precor -ārī(不定法)-ātus sum(完了形), tr, intr dep(形式受動相動詞) ① 祈る, 懇願する 〈alqm [alqd];alqm alqd;alqd ab alqo;ut, ne;+acc c. inf〉.② (よかれ[悪しかれ]と)願う
precandō は第1変化動詞 precor の動名詞 precandum(←現在分詞 precāns)の与格または奪格。ここでは奪格(手段の奪格)。

 

【逐語訳】

Dēsine(やめなさい)fāta(運命を)deum(神々の) flectī(変えられると)spērāre(期待すること)precandō(祈ることによって).

 

【訳例】

神々の運命を祈ることによって変えられると期待することはやめなさい。

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第6歌の一節でした。今回も西洋古典叢書アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

前回に続いて、今回は第6歌。少し前の課題で、「スキーピオーの夢」を読んでみたとき、山下先生から「祖父大スキーピオーが(夢の中で)孫の小スキーピオーの「未来」を予言している」箇所について、これが後の「アエネーイス」第6歌後半で描かれる父アンキーセースとアエネーアースの対話を用意しているかのようで興味深い、と教えていただきました。

なるほど、過去のある時点から現在にいたる歴史を「ふり返る」というのは、考えたことがなかったのですが、これは不可能なんですね。何故なら、単に、過去においては、現在にいたる歴史は、まだ未来ですから。

そこで、ハッと気が付きました。そうか。もし神であれ、タイムマシンであれ、因果律を乗り越えても許容される、何某かの舞台装置があれば、過去のある時点から、未来である(その内容は書き手と読者には既知の)歴史を予言してみせることが可能になる、つまり違和感なく許容させることも出来るわけですね。

アエネーイス」第6歌後半においては、亡き父アンキーセスが、ローマ建国をその身の定めとするアエネーアースに、未来のローマの歴史を築く英雄たち(アルバの王、ロームルス、ブルートゥス、スキーピオー、カエサルアウグストゥス等々)の魂を紹介し、英雄がその壮大な事業への確信を得るという劇的なシーンを、違和感なく描き出してみせます。

課題文の方は、第6歌の前半。亡き父に再会し、未来の開示を受けるため、巫女の導きによって、生きたまま冥界に下ったアエネーアースは、冥界を彷徨う幾多の霊魂と出会うのですが、その一人、パリヌールスは、カルターゴに漂着する前、波にのまれた操舵手。冥界に横たわる川には、渡し守がいて、死後、礼をつくして埋葬されたものだけが、波に運ばれ救われるという掟らしく、川を渡れず彷徨っています。

パリヌールスは、アエネーアースに救いを求めますが、巫女は埋葬されるまでは岸に近づけないのが「神々の定めた運命」であり、変えることはできないと告げ、今回の課題文となりました。

その後、自決した女王ディードーとも再会しますが、言い訳するアエネーアースの言葉に、無言で目も合わず、救いがないのですが、死別した夫シュカエウスと共に去りゆく姿を、涙ながらに見送った、として(割とあっさりと)過去の呪縛を解き放ち、未来の開示へと向かいます。

 

第23回課題(2020.5.2)

練習問題23-2

Quis fallere possit amantem?
(クイス ファッレーレ ポッシト アマンテム)

Verg.Aen.4.296
ウェルギリウスアエネーイス

Aeneid IV

 

【学習課題】

 分詞(現在分詞・完了分詞・目的分詞・未来分詞)

 

【語彙と文法解析】

quis quis quid, pron(代名詞)Ⅰ (interrog 疑問詞)① だれ, 何, どれ.(以下略)
quis は疑問代名詞 quis の通性・単数・主格

fallō -ere(不定法)fefellī(完了形)falsum(目的分詞), tr(他動詞) ① 迷わせる, 誤らせる ② 欺く, だます 〈alqm〉.③ (期待を)裏切る, 失望させる(以下略)
fallere は 第3変化動詞 fallō の一人称・単数・不定法。

possum posse不定法)potuī(完了形), intr(自動詞)(tr 他動詞) ① (...することが)できる 〈+inf〉.② 可能性がある.(以下略)
possit は 不規則動詞 possum の接続法・能動態で、三人称・単数・現在。

amans -antis(属格), adj(prp 現在分詞)① (人が)愛している, 愛情深い 〈+gen〉(以下略)
amantem は amōの現在分詞 第3変化形容詞(one-termination)amans の通性・単数・対格。
 

【逐語訳】

Quis(誰が〜だろうか)fallere(欺く)possit(できる)amantem(愛するものを)?

 

【訳例】

誰が愛するものを欺くことができるだろうか?

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第4歌の一節でした。今回も西洋古典叢書アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

アエネーイス」からの課題は今回が3回目。過去2回は後半のいわゆる戦記。前半を読んでみたのは初めてです。1歌から3歌までが拾い読みなので、受け売りですが、難破同然でカルターゴに漂着したアエネーアースは、母である女神ウェヌストロイアの再興を阻止したい女神ユノーの言わば呉越同舟による介入で、女王ディドーに強く愛され、一旦は、建設途上のカルターゴをともに治めていくことになります。

しかし英雄アエネーアースは、イタリアの地にトロイア人の新たな王国を建設する「定め」を背負っている身。最高神ユピテルは、何時にも増して強い言葉でアエネーアースを諭し、警告を与えます。

これに驚愕し、戦慄を覚えたアエネーアースは、ディドーを裏切ることへの後ろめたさを感じつつ、密かに艦隊を整え、カルターゴを離れようと準備を進めるのですが、すぐに女王は策略に気づきます。

「誰も恋するものを欺けない」(岡・高橋訳)とは、女王ディドーがアエネーアースの裏切りに気づいた瞬間なのですね。ここで、恋するものは女王。欺くのはアエネーアース。最初は「愛する相手を欺くようなことはできない」という意味かと思いましたが、違うようです。

一度は、アエネーアースに翻心を嘆願するディドーですが、アエネーアースの不誠実ともいえる態度に絶望し、嘆願は軽蔑と憎悪となり、「まだ見ぬ者よ、わが骨より出て復習者となれ。」と、ローマ史上最強の敵、カルタゴの将軍ハンニバルの出現を予言しつつ、アエネーアースの贈った剣で自決します。

幾重にも、幾重にも伏線が張られ、ローマの繁栄と苦難の歴史を、神々の意志ではあるものの、決して決定論ではなく、読む者に手に汗握らせながら描き出してみせる、文字通りの一大叙事詩です。

 

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アエネーアースの行程(Rcsprinter123 / CC BY

 

 

第21回課題(2020.4.18)

練習問題21-5

Cum autem Carthāginem dēlēveris, triumphum ēgeris censorque fueris et obieris lēgātus Aegyptum, Syriam, Asiam, Graeciam, dēligēre iterum consul absens bellumque maximum conficiēs, Numantiam exscindēs.

(クム アウテム カルタギネム デーレーウェリス、トゥリウムプム エーゲリス ケンソルクエ フエリス エト オビエリス レーガートゥス アエギュプトゥム、シリアム、アシアム、グラエキアム、デーリゲーレ イテルム コンスル アブセンス ベルムクエ マクシムム コンフィキエース、ヌマンティアム エクスキンデース)

Cic.Rep.6.11
キケロー「国家について」

Cicero: de Re Publica VI

 

【学習課題】

 動詞3 直接法・能動態・未来完了

 

【語彙と文法解析】

cum 接続詞 ① (真に時を示す)...の時に

autem 接続詞 ① しかし, これに反して, 他方では.② さらに, そのうえ.③ (三段論法で小前提を導いて)ところで, さて(=atqui).

Carthāgō -ginis, f カルターゴー《 (1) アフリカ北岸にあった Phoenicia 人の植民市;ローマに滅ぼされた(前146).
Carthāginemは第3変化名詞 Carthāgō の女性・単数・対格。

dēleō -ēre(不定法)-ēvī(完了形)-ētum(目的分詞), tr(他動詞)① 消し去る, ぬぐい去る.② 全滅させる, 抹殺する, 破壊する.(以下略)
dēlēveris は 第2変化動詞 dēleō の直説法・能動態で二人称・単数・未来完了。あなたが破壊する。

triumphus -ī, m ① 凱旋式, 凱旋行進 〈+gen;ex [de]+abl〉(以下略)
triumphum は第2変化名詞 triumphus の男性・単数・対格。

agō -ere(不定法)ēgī(完了形)actum(目的分詞), tr(他動詞), intr(自動詞)
Ⅰ (tr)① 進める, 導く, 駆りたてる, 追いやる(中略)⑬ (式・祭を)挙行する, 催す
Ⅱ (intr)① 行動する, ふるまう.(以下略)
ēgeris は第3変化動詞 agō の直説法・能動態で、二人称・単数・未来完了。

censor -ōris, m ① 監察官《ローマにおいて戸口調査・風紀取締まりなどをつかさどった;5年ごとに2名選出された》.② 厳格な批評家.
censorque は第3変化名詞 censorの男性・単数・主格(呼格)に前接詞-que(〜と〜、また、そして)がついた形で、ここでは主格。

sum esse fuī, intr Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る(中略)Ⅱ (繋辞として)① ...である(以下略)
fueris は不規則動詞 sum の直説法・能動態で、二人称・単数・未来完了。

et 接続詞、副詞 Ⅰ (conj)① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も ③ そしてまったく, しかも ④ (物語で)そしてそれから (中略) Ⅱ (adv)① ...もまた, 同様に (以下略)

obeō -īre(不定法)-iī(完了形)-itum(目的分詞), tr(他動詞), intr(自動詞) Ⅰ (tr)① 顔を合わせる, 会う.② 巡回する, 訪問する.(中略) Ⅱ (intr)① 向かって行く.(以下略)
obieris は不規則動詞 obeō の直説法・能動態で、二人称・単数・未来完了。

lēgātus -ī, m ① 使節.② (将軍・総督の)副官, 代官.③ (帝政期の)属州総督.
lēgātus は第2変化名詞 lēgātusの男性・単数・主格(述語としての主格)。

Aegyptus -ī, m, f ① (m)〘伝説〙アエギュプトゥス, *アイギュプトス《Belus の息子で Danaus の兄弟;伝説上のエジプト王;その50人の息子は Danaus の50人の娘と結婚した》.② (f)エジプト《しばしばアジアの一部と考えられた》.
Aegyptum は第2変化名詞 Aegyptus の女性・単数(のみ)・対格。

Syria -ae, f シュリア, ∥シリア《小アジアの一地方;通常 Phoenicia と Palaestina を含む》.
Syriam は第1変化名詞 Syria の女性・単数(のみ)・対格。

Asia -ae, f ① アシア, ∥アジア《 (1) 本来は Lydia の町;のちにその周辺地域.(2) 小アジア;特に (a) Pergamum 王国.(b) Troja 王国.(3) Pergamum 王国を遺贈されたローマの属州としてのアシア;当初は Mysia, Lydia, Caria, Phrygia から成った.(4) アジア大陸》.
Asiam は第1変化名詞 Asia の女性・単数(のみ)・対格。

Graecia -ae, f グラエキア, ∥ギリシア Magna ~ (CIC)∥マグナ・グラエキア《ギリシア人が多数の植民市を建設したイタリア南部地方》.
Graeciam は第1変化名詞 Graecia の女性・単数(のみ)・対格。

dēligō -ere(不定法)-lēgī(完了形)-lectum(目的分詞), tr(他動詞) ① 選ぶ, 選択する.(以下略)
dēligēre は第3変化動詞 dēligō の直説法・受動態で、二人称・単数・未来。

iterum 副詞 ① 再び, もう一度 (以下略)

consul -sulis, m 執政官《共和制期ローマの最高官職;毎年2名を選出》
consul は第3変化名詞 consul の男性・単数・主格(呼格)。ここでは主格で、dēligēre の間接目的語。

absens -entis, adj 形容詞(prp 現在分詞)① 不在の.(以下略)
absens は 不規則動詞 absum(離れている;不在である)から派生した現在分詞 absens(第3変化で見出しが1種類のタイプ)の通性中性・単数・主格(呼格)または中性・単数・対格。

bellum -ī, n ① 戦争 ② 戦闘, 会戦.③ 争い, 闘争.(以下略)
bellumque は 第2変化名詞 bellumの中性・単数・主格(呼格)または対格に、前接詞-que(〜と〜、また、そして)がついた形で、ここでは対格。

maximus -a -um, adj(形容詞)superl(最上級の)① 最大の.(以下略)

conficiō -cere(不定法)-fēcī(完了形)-fectum(目的分詞), tr(他動詞) ① 遂行する, 果たす(中略) ⑤ なし遂げる, 成就する.(中略) ⑧ 片づける, 完了する(以下略)
conficiēs は 第3変化動詞B conficiō の直説法・能動態で、二人称・単数・未来。

Numantia -ae, f ヌマンティア《Hispania Tarraconensis の町;小 Scipio に攻略された(前133)》.
Numantiam は第1変化名詞 Numantia の女性・単数(のみ)・対格。

exscindō -ere(不定法)-scidī(完了形)-scissum(目的分詞), tr(他動詞) 破壊する;滅ぼす.
exscindēs は第3変化動詞 exscindō の二人称・単数・未来。

 

【逐語訳】

Cum(〜の時)autem(さらに)Carthāginem(カルターゴーを)dēlēveris(あなたが破壊し), triumphum(凱旋式を)ēgeris(挙行し)censorque(また監察官と)fueris(なり)et(そして)obieris(〜を訪問する)lēgātus(使節として)Aegyptum(エジプト), Syriam(シリア), Asiam(アジア), Graeciam(ギリシャ), dēligēre(選出される)iterum(再び)consul(執政官に)absens(不在の状態で)bellumque(戦争にも)maximum(最大の)conficiēs(終結させ), Numantiam(ヌマンティアを)exscindēs(滅ぼすだろう).

 

【訳例】

さらにあなたはカルターゴーを破壊し、凱旋式を挙げ、また監察官となり、そしてエジプト、シリア、小アジアギリシャ使節として訪問する時、(あなたは)不在のまま再び執政官に選出され、最大の戦争を終結させ、ヌマンティアを滅ぼすだろう。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「国家について」第6巻・スキーピオーの夢 の一節でした。今回も『キケロー選集8』(岡道男訳・岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。

今回は25ワード。今までの課題の中では長文だったので、辞書を引くだけで、教科書もひっくり返したりしつつ、のべ6時間くらいかかったと思います。月末の夏期特別購読会、セネカ「人生の短さについて」第1節のボリュームが気になったので、調べてみると186ワード。私のペースだと、だいたい45時間かかる見当ですね〜。ちょっと、気合いが入りました。

さて、今回の課題文のくだり、英雄スキーピオーの半生を実に25ワードで読者に想起させるあたりが、名文家キケローの面目躍如というところでしょうか。

「スキーピオーの夢」が149年。その2年後、執政官となり、146年カルターゴーを破壊。142年に監察官。134年には立候補していなかったにもかかわらず再び執政官に選出され、翌年ヌマンティアを滅ぼします。そして、134年は、グラックス兄弟の兄ティベリウス護民官に就任した年でもあります。

129年、スキーピオーは急死するのですが、キケローが「国家について」の対話の舞台として設定したのが、まさにその年。解説によれば、当時、ローマはグラックス兄弟を中心とする改革派と、これに対抗する保守派によって国民が二分され、国政が混乱のきわみに陥った時期で、キケローは、積年の内紛によって引き裂かれたローマの再建と国民の再統一(すなわちローマ共和制の再興)を図るために、本書を著し、国家の意義と国民の使命を説いた、ということでした。

今回は、歴史を少し勉強してみたのですが、小スキーピオーは問題のグラックス兄弟の改革に反対だったようで、門閥派(名門貴族を中心とする大土地所有者)と形容する記述も見うけられました。キケロー自身も、課題文の文脈の流れで、大スキーピオーに「私の孫の策謀によって国家が混乱に陥っているのを見出すだろう」と語らせています。
※「私の孫」はグラックス兄弟のことです。

この辺りが、面白いところだと思うのですが、王政、貴族政を否定し、民主政を理想とするキケローも、民主政を実現するローマ共和制=現体制を(本質的な意味で)擁護するあまり、現実の政治的課題については、合理的判断によらず、守旧的に振る舞うような面もあったのでしょうね。

 

第20回課題(2020.4.11)

練習問題20-3

Virtūs est vitium fugere et sapientia prīma stultitiā caruisse.
(ウィルトゥース・エスト・ウィティウム・フゲレ・エト・サピエンティア・プリーマ・ストゥルティティアー・カルイッセ)

Hor.Ep.1.1.41
ホラーティウス「書簡詩」

Horace: Epistulae I

 

【学習課題】

 動詞3 直接法・能動態・完了

 

【語彙と文法解析】

virtūs -ūtis, f ① 男らしさ, 雄々しさ.② 勇気, 果断;(pl)英雄的行為.③ 美徳, 高潔;卓越.④ (V-)(神格化されて)美徳の女神.(以下略)
Virtūs は第3変化名詞virtūsの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。

sum esse fuī , intr Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る(中略) Ⅱ (繋辞として)① ...である (以下略)
est は不規則動詞sumの直説法・能動態・三人称・単数・現在。

vitium -ī, n ① 欠点, 欠陥 ② 過誤, 過失 ③ 悪徳, 不品行 (以下略)
vitium は第2変化名詞vitiumの中性・単数・主格(呼格)または対格。ここではfugereの補語で、対格。

fugiō -gere fūgī(fut p fugitūrus), intr, tr  Ⅰ (intr)① 逃げる, 逃走する, 走り去る(中略) Ⅱ (tr)① (...から)逃げる, のがれる.② 避ける, 遠ざける (以下略)
fugere は第3変化動詞B fugiō の不定法・一人称・単数。〜を避けること。

et conj, adv Ⅰ (conj)① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も(以下略)

sapientia -ae, f ① 知恵, 分別.② 英知
sapientia は第1変化名詞sapientiaの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。知恵は。

prīmus -a -um, adj superl ① 先頭の, 最前部の, 先端の.② 第一の ③ 最初の, 初めの, 冒頭の, 発端の ④ 主要な, 最も顕著な, 卓越した, 一流の.
prīma は第1・第2変化形容詞prīmusの女性・単数・主格(呼格)または中性・複数・主格(呼格)か対格。ここでは、sapientiaにかかり女性・単数・主格。最初の。

stultitia -ae, f ① 愚かしさ, 愚鈍.② ばかげたこと;愚行.
stultitiā は第1変化名詞stultitiaの女性・単数・奪格で、caruisseの補語。

careō -ēre -ruī -ritum, intr〈+abl〉① ...がない, 欠けている ② 遠ざける, 控える, なしですます ③ (危険・苦悩などを)免れる, 逃れる.
caruisse は第2変化動詞careōの不定法・能動態・完了・二人称・単数。〜がないこと。

 

【逐語訳】

Virtūs(美徳は) est(〜である) vitium(悪徳を) fugere(避けること) et(そして) sapientia(知恵は) prīma(最初の) stultitiā(愚かしさ) caruisse(<奪格>がないこと).

 

【訳例】

美徳とは悪徳を避けることであり、そして最初の知恵は愚かしさがないことである。

 

(古典の鑑賞)

ホラーティウス「書簡詩」第1巻第1歌の一節でした。今回も『書簡詩』(高橋宏幸訳・講談社学術文庫)を図書館で借りてきて読んでみました。

韻文による書簡はギリシャ文学には先例がないとのことで、ヘクサメトロスによる書簡詩はホラーティウスの独創らしい。(「ラテン文学を学ぶ人のために」)

最近、韻律に少し関心が出てきたので、どれどれ、とちょっと考えてみよう。「長短短・長短短・長長・長短短・長短短・長長」とかになればいいんですよね。

原文の改行は「The Latin Library」では prīma の後に来ていましたが、上手くいかないので、stultitiā で改行するとして、1行目は8単語、6韻脚。これでヘクサメトロスになってる! と思ったら、最初が「長長短」になってる。しかも、次行は「短長短」で始まってる? あれ〜、やっぱり難しそう。

Vir-tūs est | ui-ti-um | fu-ge-re et | sa-pi-en-tia | prī-ma stul | -ti-ti-ā
長 長 短    長 短 短   長 長           長 短 短          長 短 短       長 長 
ca-ruis-se. (以下略)
短 長 短

 ※後日追記
 討ち死にしました(笑)。山下先生に校正していただきました。

Virtūs | est uiti | um fuge r(e( et sapi | entia | prīma
stultiti | ā caru | isse

上のように二行に分かれます。

 ※ここまで

ともあれ、平易でバランス感覚に優れたホラーティウスの人生訓や哲学の勧めも、抒情詩人としての自信を隠さないホラーティウスらしく、実は技巧を凝らした、意欲的な創作ということなのだと思います。

ところで、「諷刺詩」からの課題に取り組んでみようかなと思い、ちょうど手元に『ホラティウス全集』(鈴木一郎訳・玉川大学出版部)もあるので、訳を比べてみました。

「美徳の第一歩は悪徳からの脱却、知恵の第一歩は愚昧の排除です。」(高橋訳)

「悪の世界から遠ざかり、愚行を避ければ、それだけで先ず哲学の始まりです。」(鈴木訳)

高橋訳では、「美徳の<第一歩は>」の代名詞が省略されているという解釈でしょう。原文に忠実な翻訳ですね。鈴木訳の「哲学の始まり」は、多少意訳と言えるかも知れません。

他の訳を参照すると、自分のラテン語の語彙と文法解析の勘違いに気づけるかも知れないし、他の訳者のご苦労によって、文脈を追うことも出来るので、大変参考になりますね。何事につけですが、先人に感謝、です。

 

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第12回課題(2020.2.23)

練習問題13-3

Hīc hasta Aenēae stābat.
(ヒイーク ハスタ アエネーアェ スターバト)

Verg.Aen.12.772

ウェルギリウスアエネーイス

P. VERGILI MARONIS AENEIDOS LIBER DVODECIMVS

 

【学習課題】

動詞2 直説法・能動態・未完了過去

 

【語彙と文法解析】

hīc adv ① (空間的)ここに, この場所に.② (時間的)この時に, それですぐに.③ この機会[場合]に, この状況で.

hasta -ae, f ① 槍, 投げ槍.(以下略)
hasta は第1変化名詞hastaの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格で、文の主語。

Aenēās -ae, m〘伝説〙アエネーアース
Aenēae は固有名詞Aenēāsの男性・単数(のみ)・属格または与格。ここでは属格。アエネーアスの。

stō -āre stetī statum, intr ① 立つ, 立っている.
stābat は第1変化動詞stōの直説法・能動態・三人称・単数・未完了。立っていた。

 

【逐語訳】

 Hīc(ここに) hasta(槍が) Aenēae(アエネーアースの) stābat(立っていた).

 

【訳例】

ここにアエネーアースの槍が突き刺さっていた。

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第12巻の一節でした。今回も『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳/京都大学出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

課題には「Verg.Aen.12.772」とあります。これはウェルギリウスアエネーイス」第12巻の772行目にある、という意味です。翻訳には、必ず原作の行数が付されていますから、すぐに該当箇所は見つかります。

「この切り株にアエネーアスの槍が立っていた」(岡・高橋訳)。なるほど。「切り株」とは、古代ローマの牧人と家畜の神ファウヌスの神木の切り株、ということで、月桂樹の木のようです。その神聖な木をトロイア人が戦闘のために切り払っていた、まさにここに、アエネーアースの槍が立っていた、というくだりです。

足を負傷したアエネーアースは、トゥルヌスを走っては捕まえられないので、その槍を引き抜いて、仕留めようとするのですが、ファウヌスの怒りに触れたのか、これがなかなか抜けない、というなかなかハラハラドキドキの場面なわけですが、ところでこの「アエネーアスの槍」って何だっけ、と引っかかってしまい、少し前の文脈を辿ってみてもわからない。

何せ、ここは12歌も772行目まできているので、話の流れを追うには、やはり散文形式の訳の方がとっつきやすいかも、と思いまして、とうとう『アエネーイス』(杉本正俊訳・新評論)を買ってしまいました。

春には、山下先生の「アエネーイス」特別購読会を受講した際に『アエネーイス』(泉井久之助訳・岩波文庫)も買ってみたのですが、韻文形式の訳は、雰囲気はでるものの通読するには骨が折れます。

で、結局、「アエネーアスの槍」とは、二人の勇士が決戦の開始の合図に投げあった槍で、アエネーアースが投げたその槍のことでした。
見つけてしまえば、何のことはない、711行目。案外、近くに書かれていたのでした。(汗)
第12巻は、アエネーアースとトゥルヌスの決戦が主題。まさにそれを象徴する槍というわけですね。

今、「アエネーイス」の3訳が手元にありますが、ラテン語学習としては、やはり岡・高橋訳が一番参考になるでしょう。韻文の雰囲気を味わうには、泉井訳を。あらすじを追うには杉本訳と、使い分けると良いですね。(杉本訳は、現代訳で読みやすいですが、少々格調に欠けるところもあるかな)

 

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