ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第11回課題(2019.9.14)

練習問題21-4

Sī haec in animō cōgitāre volēs, et mihi et tibi et illīs dēmpseris molestiam.
(シー ハエク イン アニモー コーギターレ ウォレース、エト ミーヒー エト エト ティビー エト イッリース デームプセリス モレスチアム)

Ter.Ad.817-819 Terentius, Adelphoe

テレンティウス「兄弟」

Terence: Adelphoe

 

【語彙と文法解析】

sī /接続詞 もし...ならば.
Ⅰ (+直接法)(単純な可能性) 
Ⅱ (+接続法)① (2 sg(2番目にくる単数の) の定動詞と用いられて一般的条件を表わす)② (過去の繰り返された行為)③ (+現在形;+完了形)(可能性はあるものの見込みのなさそうな[本当らしくない]仮定)(以下略)

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hic haec 女性 hoc 中性,  /形容詞, 指示代名詞 
Ⅰ (形容詞) ① この, ここの, ここにある.② 今の, 現在の;最近の ③ 問題の, 例の;今述べたばかりの ④ 次の(ような), 以下の.⑤ この種の, このような.
Ⅱ (代名詞) ① これ, この人;(n pl)現在の状態, 現時点;(m pl)この場所[時代]の人々.② 今述べたばかりのこと ③ これから述べようとすること(以下略)

haec は 指示代名詞 hic の女性・単数・主格または 中性・複数・主格または中性・複数・対格。ここでは、中性・複数・対格で、cōgitāre の目的語。これらの(今述べたばかりの)ことを。

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in /前置詞
Ⅰ 〈+奪格〉
① (空間的)...の中に, ...において, ...に ② (時間的)...の間に, ...のうちに, ...に ③ (ある状況・状態など)...で, ...において, ...のもとで (以下略)
⑥ ...でありながら
Ⅱ 〈+対格〉
① (空間的)...へ, ...に向かって, ...の方へ, ...の中へ ② (ある状況・状態など)...へ 
③ (時間的)...の間;...まで;...に ④ (態度・行動・感情など)...に対して, ...に向かって (以下略)

ここでは、〈+奪格〉で、〜において、〜の中で。

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animus -ī 属格, m 男性(呼格 animī)
① (corpus 肉体に対する)精神 ② 心 ③ 性質, 気質(以下略)

animō は 第2変化名詞 animus の男性・単数・与格または奪格。ここでは、奪格で、心の中で。

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cōgitō -āre 不定法 -āvī 完了 -ātum 目的分詞 /他動詞, 自動詞
① 考える, 思考する;熟考する ② ...の考え[心情]をもつ 〈+副詞〉 ③ 意図する, 計画する

cōgitāre は 第1変化動詞 cōgitō の不定法で、考えること。

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volō velle voluī, /他動詞, 自動詞
① 欲する, 望む, 願う ② 定める, 命じる ③ (しかじかの)意見[見解]を持つ, 主張する(以下略)
volēs は 不規則動詞(命令法なし) volō の 直接法・能動態・二人称単数未来で、あなたが(←省略されている)望めば。

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et /接続詞, 副詞
Ⅰ (接続詞)
① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も ③ そしてまったく, しかも(以下略)
Ⅱ (副詞)
① ...もまた, 同様に ② non solum [modo, tantum] ... sed et ... ...ばかりでなく...もまた ③ たとえ...でも(以下略)

ここでは、接続詞で、〜と〜。

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egō /人称代名詞 (一人称)私.

mihi は 人称代名詞 egō の 一人称・与格。私。
また
tibi は 人称代名詞 egō の 二人称・与格。あなた。

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ille illa 女性 illud 中性 /人称代名詞, 指示形容詞
Ⅰ (形容詞)① あの, その.② そこの, あそこの.③ 当時の, 以前の.(以下略)
Ⅱ (代名詞)
① あれ, それ, あの人, その人, 彼, 彼女 ② 以下のこと.③ 例の[周知の]人[もの, こと].

illīs は 人称代名詞 ille の 女性・複数・与格または奪格。ここでは与格で、彼ら。

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dēmō -ere 不定法 dempsī 完了 demptum 目的分詞 /他動詞
取り去る, 取り除く

dēmpseris は 第3変化動詞 dēmō の 直接法・能動態・未来完了・二人称単数。ここでは、〈alci 人の与格〉から〈alqd 物・事の対格〉を 取り除くだろう。

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molestia -ae 属格, f 男性
① 不快感, 煩わしさ ② (文体の)わざとらしさ, 気取り.

molestiam は 第1変化名詞 molestia の 女性・単数・対格。

 

【逐語訳】

 Sī(もし〜ならば) haec(これらの今述べたばかりのことを) in animō(心の中で) cōgitāre(考えることを) volēs(望めば), et mihi(私と) et tibi(あなたと) et illīs(彼らと) dēmpseris(取り除くだろう) molestiam(煩わしさを).

 

【訳例】

もし、これらの(今述べたばかりの)ことを(あなたが)心の中で考えることを望むならば、私とあなたと彼らから煩わしさを取り除くだろう。

 

(古典の鑑賞)

テレンティウス「兄弟」の一節(第五幕第三場)でした。図書館で借りてきた「ローマ喜劇集5」(京都大学学術出版会)に集録の「兄弟」(山下先生の翻訳されたものでした!)を拝読しました。

「デメア、このことは、よくよく考えてみれば、わしやあんた、それに二人の息子の厄介ごとを、みんなまとめて解決してくれるんだ。」(原文「haec si uoles in animo uere cogitare, Demea, et mihi et tibi et illis dempseris molestiam.」The Latin Libraryより)

私は一人っ子なので、兄弟の間の感情の機微がわかりませんが、それでも、老兄弟、デメア(兄)とミキオ(弟)の兄弟ならではの本音トークを、まるで現代劇のように、楽しませていただきました。

haec(これらのこと)とは、いろいろ厄介ごとがあって、お金も無駄にしたけど、それは私(ミキオ)がすべて何とかするので、それでいいだろう?と、ミキオがデメアの憤りを沈めようとした文脈です。

そう言われると、「金の話はどうでもいい」と言いたくなるのが人情というもの。「だいだい、おまえのそういう態度が、一家を破滅させないか心配なんだ」(意訳)と切り返します。このあたり、いかにも兄弟げんかにありそうなリアリティがあって、とても楽しめました。