ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第12回課題(2019.9.21)

練習問題23-3

Audentēs Fortūna juvat.
(アウデンテース フォルトゥーナ ユーバト)

 

Verg.Aen.10.284

Vergilius, Aenēis

ウェルギリウスアエネーイス

P. VERGILI MARONIS AENEIDOS LIBER DECIMVS

 

【語彙と文法解析】

audeō -ēre(不定法) ausus(完了) sum(スピーヌム), tr(他動詞), intr(自動詞) ① ...する気がある, ...したい 〈+inf〉.② 思い切って[あえて]する

audentēs は 第2変化動詞 audeō の 現在分詞 audens の 男性・女性形複数の主格(呼格)または対格

ここでは、juvō の 目的語で 対格。現在分詞の名詞的用法。

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Fortūna -ae, 女性 ① 運, 運命. ② 幸運. ③ 不幸, 不運. ④ (F-)〘神話〙フォルトゥーナ《ローマの運命の女神;ギリシア神話の Tyche に当たる》.(以下略)

Fortūna は 第1変化名詞(固有名詞)の単数(単数のみ)で、主格(呼格)または奪格

ここでは、主格。
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juvō -āre(不定法), jūvī(完了) jūtum(スピーヌム), tr(他動詞)
① 助ける, 援助する, 助力する 〈alqm(人の対格) [alqd](物・事の対格)〉.② 役立つ, 有益である.③ 喜ばせる

juvat は 第1変化動詞 juvō の直説法能動態三人称単数現在。

 

【逐語訳】

 Audentēs(思い切って行う者たちを) Fortūna(運命の女神は) juvat(助ける).

 

【訳例】

運命の女神は勇者(たち)を助ける。

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第10歌の一節でした。京都大学学術出版会のものを図書館で借りてきて読んでみました。

第10歌はユッピテルとウェヌス、そしてユーノの対話から始まります。子どもの頃、天文ファンだった私にとっては、ジュビター(木星)、ヴィーナス(金星)、ジュノー(小惑星のひとつ)と言った方がなじみがあるギリシャ神話の神々でした。

叙事詩を神話とパラレルに描くことで、作家は、同時代の歴史を「運命に定められた」ものとして描き出し、結果として、ウェルギリウスの庇護者であったアウグストゥスの権威を高める効果を期待したようです。

それにしても、過去から未来までを俯瞰して語り合う神々の言葉は、何度読み返しても、登場人物、出来事、因果関係が神話と史実が錯綜して、若い頃、ロシア文学を拾い読みしたときの読後感を思い出しました。(汗)

解説(高橋宏幸)を読んでも、基礎的なギリシャ神話とギリシャ・ローマ古代史の知識が前提とされているようで、マインドマップに登場人物を整理したり、ウィキペディアや「ギリシャ・ローマ古典文学案内」(岩波文庫)や「ヨーロッパ文学の読み方ー古典編」(放送大学)を参照しました。それでも、何となくしっくり来ないので、ネットで紹介されていた映画「TOROY」(主演ブラッド・ピット)も観てみました。

映画を観てから、第10歌と解説を何度か読み返すと、次第に登場人物やストーリーが暗黙知とする神話や史実が少しみえてきたような気がしました。

が、それはそれで、疑問は深まるばかり。今回の課題、「アエネーイス」の一節なので、てっきりアエネーアスの言葉だと思っていたら、訳本を読むと、トゥルヌスの言葉でした。また、「アエネーイス」第7歌から12歌は「イリアス」をモチーフにしているということで、怒りの主体アエネーアスがアキレスのイメージかと思うと、むしろ「いまやラティウムにもう一人のアキレスが生まれた」(第6歌88-89)のくだりで、アキレスはトゥルヌスと対比されているよう。では、アエネーアスはヘクトルかというとそれも違う。神話とのパラレルと視点の錯綜は、一筋縄では解けなそうです。

今回の課題は3語でしたが、これを提出までに1週間かかりました。ラテン文学の世界、畏るべしです。

苦労はしましたが、ラテン語の学びの深さを垣間見たようで、楽しい一週間となりました。