ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第13回課題(2019.9.28)

練習問題25-2

Nunc est bibendum, nunc pede līberō pulsanda tellūs.
(ヌンク エスト ビベンドゥム、ヌンク ペデ リーベロー プルサンダ テルース)

Hor.Carm.1.37.1
Q. HORATI FLACCI CARMINVM LIBER PRIMVS
ホラ−ティウス「カルミナ」

Horace: Odes I

 

【語彙と文法解析】

========================

nunc adv(副詞) ① 今, 現在 ② (近い過去)今しがた, たった今.③ (近い未来)今から, すぐに.④~...~ ∥ある時は...(また)ある時は..., 時には...時には....(以下略)

========================

sum esse不定詞)fuī(完了形), intr(自動詞)
Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る (以下略)
Ⅱ (繋辞として)① ...である (以下略)

est は 不規則動詞 sum の直説法・能動態・3人称・単数・現在

========================

bibō -ere(不定詞)bibī(完了形)bibitum(スピーヌム), tr(自動詞)intr(他動詞)
① 飲む ② 吸い込む, 吸収する

bibendum は第3変化動詞 bibō の動形容詞(bibō→bibēns 現在分詞→bibendum 動名詞→bibendus, bibenda, bibendum 動形容詞)で、第1・第2変化形容詞、男性・単数・対格、または中性・単数・主格(呼格)か対格。
ここでは、動形容詞の非人称表現なので、中性・単数・対格。主格は省略されている。

========================

pēs pedis(属格), m(男性) ① 足 ② (卓・椅子などの)脚;(ものの)最下部.(以下略)。
pede は 第3変化名詞 pēs の男性・単数・奪格

========================

līber -era(女性) -erum(中性), adj(形容詞) ① 自由な.② 独立した (以下略)

līberō は第1・第2変化形容詞 līber の男性・単数・与格または奪格、あるいは中性・単数・与格または奪格。
ここでは、pede に合わせて、男性・単数・奪格

========================

pulsō -āre(不定詞) -āvī(完了) -ātum(スピーヌム), tr(他動詞) ① 打つ, たたく.② (楽器を)弾く, はじく.③ 押し出す, 駆りたてる.

pulsanda は 第1変化動詞 pulsō の動形容詞(pulsō→pulsandī 現在分詞→pulsanda 動名詞→pulsandus, pulsanda, pulsandum 動形容詞)で、第1・第2変化形容詞、女性・単数・主格(呼格)。
ここでは、tellūs に合わせて 女性・単数・主格

========================

tellūs -ūris(属格), f(女性)[Gk](ギリシャ語) ① 大地, 地;土地, 地面.② (T-)〘神話〙テッルース《ローマの地母神》;母なる大地(=terra mater).③ 領地, 地方, 国.

tellūs は 第3変化名詞 tellūs の女性・単数・主格

========================

 

【逐語訳】

Nunc(今こそ)est bibendum((酒を)飲むべきである), nunc(今こそ)pede līberō(自由な足によって)pulsanda(打ちたたかれるべき)tellūs(大地は).

 

【訳例】

今こそ、飲むべきだ。今こそ、自由な足(どり)で、大地は打ちたたかれるべきだ。

今こそ、(酒)飲むべき(とき)だ。今こそ、足も軽やかに大地を蹴って踊るべき(とき)だ。

 

(古典の鑑賞)
ホラーティウス「カルミナ」の第1巻 37歌、冒頭の一節でした。

欧米では有名なフレーズらしく、とあるブログに「Nunc est bibendum」が1898年のミシュランのポスターでキャッチコピーとして使われたという記事がありました。

「人生を楽しもう!」というほどの意味らしく、ホラーティウス詩篇も、「この世に生きているうちに、楽しめるだけ楽しもう!」 くらいの格言として受け止められているようでした。

今回は、「歌章」(現代思潮社、藤井昇訳)を図書館で借りて読んでみました。第1巻 37歌は、紀元前30年カエサルがアレクサンドレアーに入城したときの、ローマの喜びの感情を歌った詩とのことでした。

訳者は謙遜されて、ホラーティウスの詩文を訳出することのむずかしさを解説されていますが、大変格調高い詩文に感じられ、ホラーティウスの愛したというギリシャ詩のアルカイオス詩形の詩韻の美しさとはこのようなものかと、感じさせてくれました。

ちなみに、今回の課題文の訳は以下のようになっていました。

「今こそ酒飲むときだ。今こそ足ものびやかに地を搏ちて踊るときだ」

実際、この冒頭部分は、アルカイオスが僭主ミュルシロスの死にさいして、(暴君の死を祝って)歌った詩句の模倣と考えられているようです。

ところで、わが家にも昔パリを旅行したときに買ってきたミシュランのキャラクターのぬいぐるみがあるのですが「ビバンダム(飲むべし)」くんというんですね。

上記のポスター、「今ぞ飲むべし!」と “オダ” を挙げながら、ビバンダムくんが飲んでいるのは、実は “釘やガラス片” 。「ミシュランのタイヤは、釘やガラスを飲み込んでも平気です」というのがオチらしい。

まこと、ラテン文学は欧米人の感覚のベースのようなものなんでしょうね。日本でいうと「驕れる人も久しからず」みたいな感じかな〜。

文法では、私の辞書では、動詞から動形容詞への変化が分からず、先生のテキストをよく読みなおして、ようやく合点がいきました。

今回も、苦労しましたが、楽しんで学習できました。