ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第3回課題(2019.12.21)

練習問題5-1

Semper avārus eget.
セムペル アヴァールス エイジェット)

Hor.Ep.1.2.56
ホラーティウス「書簡詩」

Horace: Epistulae I

 

【学習課題】

第2章 名詞と形容詞1
3 第1・第2変化形容詞

 

【語彙と文法解析】

semper adv(副詞)常に, いつでも

avārus -a(女性) -um(中性), adj(形容詞) ① 貪欲な;吝嗇な.② 渇望している
avārus は ここでは形容詞の名詞的用法。男性・単数・主格で、文の主語。

egeō -ēre(不定形) eguī(), intr(自動詞) ① 困窮している 〈abs(独立用法);+gen(属格)[abl](奪格)〉.② ...を欠いている, ...がない 〈+gen [abl]〉③ 熱望する, 欲する 〈+gen [abl]〉.
eget は 第2変化動詞 egeō の 直説法・能動態の3人称・単数・現在。

 

【逐語訳】

Semper(いつでも) avārus(貪欲な(者は)) eget(困窮している).

 

【訳例】

貪欲な者は常に欠乏している。

 

(古典の鑑賞)

ホラーティウス「書簡詩」第1巻第2歌「ロッリウス宛」の一節でした。『書簡詩』(講談社学術文庫 高橋宏幸役)を図書館で借りて読んでみました。

書簡形式の詩ということで、ロッリウスは弁論術を学ぶ若者で、すでに軍務経験もあり、都会で立身出世を目指している。一方、ホラーティウスは田舎に隠居し、哲学を志す詩人。第2歌は、詩人の若者への哲学・詩学への薦めがテーマのようです。

「書簡詩」第1巻はそもそもパトロンであるマエケナース(ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの腹心)からの詩作の所望に対する「辞退」が作品の位置付けで、辞退の理由が、自分は今哲学を志しているから、というものなので、第2歌の哲学の薦めも、その意味で作品の基本テーマにそったもの、と言えるでしょう。

第2歌の冒頭は、トロイア戦争にふれたくだり。トロイア戦争については「アエネーイス」からの課題文の時に少し調べたので、割と話の流れを掴むことができました。どのような学びも同じと思いますが、学習が進むにつれて、関連する暗黙知が身についてくるので、学習を進める喜びに繋がりますね。

話は、ギリシャ王侯の欲望の帰結から、一転、哲学の薦めへ。欲望に際限はないが、「十分なものを手に入れたら、それ以上を望んではいけません」と説きます。「快楽を蔑みなさい。痛みを代償とする快は害です」とし、「強欲な人はいつも不満です。限度を決めて望みの実現を目指しなさい」と、今回の課題文へ。

高橋訳の「いつも不満です」は、原典に照らすと、意訳ですね。「不満だ」を直訳とすると、displicet あたりになりそうです。

ホラーティウス自身は、ストア派の道徳が幹となっているとのことですが、ペリパトス派の中道も重んじ、若者の快楽主義も軽蔑しない、いわば穏健派。美食家の一面もあったそうで、自身を「エピクーロス派の豚」と称たりもする「粋人」で、そういったところが、現代まで愛読者を惹きつけているのかも知れません。