ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第19回課題(2019.11.9)

練習問題36-2

Accidit ut ūnā nocte omnēs Hermae dēicerentur.
(アッキーディト・ウト・ウーナー・ノクテ・オムネース・エルマエ・デーイケレントゥール)

Nep.Alc.3
Nepōs, Dē Virīs Illustribus, Alcibiadēs
ネポース「著名な人物について アルキビアデース」

Nepos: Life of Alcibiades

 

【語彙と文法解析】

accidō -ere(不定法)-cidī(完了), intr(自動詞)① 落下する, 落ちる, 倒れる.中略)⑤ 起こる 〈ut, quod;+inf〉
例文:accidit ut una nocte omnes Hermae dejicerentur (NEP)∥一夜のうちにすべてのヘルメース柱像が倒されるということが起こった.(以下略)
accidit は 第3変化動詞 accidō の直接法・能動態・3人称単数の現在形または完了形。ここでは、ūnā以下の従属文の動詞が接続法の未完了過去なので、主文の動詞は第2時称、完了とわかる(「時称のルール」)。(ut以下の)〜ということが起こった。

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ut adv(副詞), conj(接続詞)
Ⅰ (adv)
Ⓐ (interrog)いかに, どのように (以下略)
Ⅱ (conj)
Ⓐ (+ind(多く pf))⒜ ...する[した]時, ...するやいなや ⒝ ...して以来, ...してから Ⓑ (+subj)① (副詞節を導く)⒜ (目的)...するために(否定は ~ ne または ne のみ) ② (名詞節を導く)(中略)⒠ (説明・定義)...ということが
ここでは、accidit ut 〜で、「〜ということが起こった」の意。
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ūnus -a(女性)-um(中性)(gen(属格)ūnīus, dat(奪格)ūnī), adj(形容詞)
① 一人の, 一つの ② 唯一の ③ (まったく)同一の(以下略)
ūnā は 第1・第2変化形容詞(pronominal:代名詞的形容詞)ūnus の女性・単数・奪格。「一つの(ūnā)夜において(nocte)」、すなわち「一夜にして」。

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nox noctis(属格), f(女性)① 夜 nocte (CIC)∥夜に(=noctu)(以下略)
nocte は 第3変化名詞 nox の女性・単数・奪格で、「夜に」の意。

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omnis -is(男女同形)-e(中性), adj(副詞)① (sg)全体の ② (pl)すべての, あらゆる.③ それぞれ[おのおの]の.④ 可能な限りすべての(種類の)
omnēs は omnis の男女同形・複数・主格(呼格)または対格。ここでは、動詞の主語に合わせて、男性・複数・主格。

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Hermēs -ae(属格), m(男性)(本来, Mercurius と同一視されたギリシア神話の神)① ヘルメース柱像《上部に Hermes(のちには他の神々)の胸像・頭像を刻んだ石の角柱;Herma とも呼ばれる;Athenae では道標として用いられた》(以下略)
Hermae は Hermēs の男性・単数・属格または与格、男性・複数・主格(呼格)。ここでは、主格で従属文の主語。

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dēiciō -cere(不定法)-jēcī(完了) -jectum(スピーヌム), tr(他動詞)① 下方へ投げる, 投げ落とす (以下略)
dēicerentur は 第3変化動詞 dēiciō の 接続法・受動態・3人称・複数・未完了過去

 

【逐語訳】

Accidit(起こった)ut(〜ということが)ūnā(とともに)nocte(夜に)omnēs(すべての)Hermae(ヘルメース柱像が)dēicerentur(投げ倒される).

 

【訳例】

一夜のうちにすべてのヘルメース柱像が倒されるということが起こった。
※辞書の例文にありました(笑)

 

(古典の鑑賞)

ネポス「英雄伝」第Ⅶ章 アルキビアデス の一節でした。今回は、『英雄伝—叢書アレクサンドリア図書館 Ⅲ』(山下太郎・上村健二訳、国文社)を府立図書館で借りてきて読んでみました。山下先生の訳された作品でした。(^^)

原題は『著名な人物について』。将軍、歴史家、王、詩人、哲学者、弁論家、政治家、文法学者など、各分野のすぐれた人物を取り上げたもので、今日まで伝わっているのは、そのうちの「英雄伝」=外国のすぐれた将軍と、ローマの歴史家(カト、アッティクス)だけ、ということです。

当然ながら、私などは、取り上げられた25人中、ラテン語の勉強を始めてから知ったお二人以外は、皆初めて目にするお名前です。(汗)

このアルキビアデスという人物。都市国家アテネの全盛時代といわれるペリクレス時代の将軍ペリクレスの養子だったとも伝えられ、ソクラテスからも教えを受けたらしく、万事に有能、機略に富み、雄弁。しかも、大変魅力ある話しぶりで、気前よく、容姿も良く、その恵まれた環境もあって、常に耳目を集める存在だったようです。

時に、アテネの命運をかけるシキリア大遠征を前に、アルキビアデスは、その将軍に大抜擢され、それを面白く思わぬ向きも多々あったとか。そんなこんなで、アテネが騒然としている最中に、町中のヘルメス柱像がなぎ倒されるという事件がおきた、というのが今回の課題のくだりでした。「ヘルメス神像毀損事件」ですね。

この事件の首謀者としてアルキビアデスが疑われたのは、その大いなる才能と破天荒な行動に、人々が多大な期待のみならず、大いなる不安を抱いていたから、だとか。

このお話、この後の顛末も大変興味深く、また、いろいろ調べてみると面白そうでした。