ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第21回課題(2019.11.23)

練習問題39-5

Deinde ego illum dē suō regnō, ille mē dē nostrā rē pūblicā percontrātus est, multīsque verbīs ultrō citrōque habitīs  ille nōbīs cosumptus est diēs.

Cic.Pep.6.9
Cicerō, Dē Rē Pūblicā
キケロー「国家について」

Cicero: de Re Publica VI

 

【学習課題】

様々な構文 絶対的奪格

 

【語彙と文法解析】

deinde adv(副詞)① 次いで, それから.② その後, 以後.

ego pron pers(人称代名詞)私
egoは人称代名詞egoの一人称・主格または呼格
mēは人称代名詞egoの一人称・対格または奪格
nōbīsは人称代名詞egoの一人称・複数・与格または奪格。ここでは行為者の奪格

ille pron, adj demonstr(指示代名詞、指示形容詞)① あれ, それ, あの人, その人, 彼, 彼女 ② 以下のこと.③ 例の[周知の]人[もの, こと].
illumは指示代名詞 illeの男性・単数・対格
illeは指示代名詞 illeの男性・単数・主格

dē prep(前置詞)〈+abl〉① ...から(下へ・離れて)(中略) ⑩ (関連・限定)...に関して, ...について(以下略)

suus -a -um, adj poss(所有の)refl(再帰の)① 自分(たち)の, 彼[彼女, それ, 彼ら, それら](自身)の(以下略)
suōは第1・第2変化形容詞suusの男性・単数・与格または奪格、または中性・単数・与格または奪格。ここではregnōにかかる中性・単数・奪格。

regnum -ī, n. ① 王であること, 王権, 王位.(中略)④ 王国;王領, 領土.(以下略)
regnōは第2変化名詞regnumの中性・単数・与格または奪格。ここでは、dē の要求する奪格。

noster -tra -trum, adj poss(所有形容詞)① 我々の, 我々に属する, 我々による;我々に対する.② =meus.
nostrāは第1・第2変化形容詞noster(主格は-er)の女性・単数・奪格

rēs reī, f ① 物, 物事, 事柄.(以下略)
rēは第5変化名詞rēsの女性・単数・奪格

pūblicus -a -um, adj ① 国民(全体)の, 国家の res publica‖=respublica.(以下略)
pūblicāは第1・第2変化形容詞pūblicusの女性・単数・奪格

percontor -ārī -ātus sum, tr(他動詞) dep(形式受動相動詞)質問する, 尋問する, 調べる
percontātus estは第1変化動詞percontorの完了分詞、男性・単数・主格。
estとともに、percontorの直説法(・受動態)・完了、3人称単数を作ります(形式受動態動詞ゆえとくに受動態と断らなくてもよい)。

multus -a -um, adj ① 多数の, 多くの, 豊富な.(以下略)
multīsqueは第1・第2変化形容詞multusの女性・複数・与格または奪格、あるいは中性・複数・与格または奪格にqueがついた形。-que...-queで〜も〜も。ここではverbīsに合わせて中性・複数・奪格。

verbum -ī, n. ① ことば, 語, 単語(以下略)
verbīsは第2変化名詞verbumの中性・複数・与格または奪格。ここでは奪格。

ultrō adv ① 向こう側へ, 越えて(以下略)

citrō adv こちら側に
ultrō citrōqueで、あちらこちらに;両側に;相互に.

habeō -ēre habuī habitum, tr(intr)① 持つ, 所有する.(以下略)
habitusはhabeōの完了分詞
habitīs は第1・第2変化形容詞habitusの女性・複数・与格または奪格、あるいは中性・複数・与格または奪格。ここでは中性・複数・奪格。
verbīs...habitīsは「絶対的奪格」。「言葉がもたれて」。日本語にする場合は「言葉を交わして」等。

consūmō -ere -sumpsī -sumptum, tr ① 使う, 費やす(以下略)
consumptus はconsūmōの完了分詞、男性・単数・主格。estとともにconsūmōの直説法・受動態・完了、3人称単数を作る。「費やされた」。

illeは指示形容詞ille,illa,illud(あの、その)の男性・単数・主格。diēsにかかる。
diēsは男性、女性両方の扱いを受けますが、この文では男性名詞として使われています。consumptusの形でわかります

diēs -ēī, m(f)① 日, 一日(以下略)
diēsは第5変化名詞diēsの男性(女性)の単数・主格(呼格)または複数・主格(呼格)または複数・対格

 

【逐語訳】

 Deinde(それから) ego(私は) illum(彼に) dē(〜について) suō(彼の) regnō(王国), ille(彼は) mē(私に) dē(〜について) nostrā(我々の) rē pūblicā(国家のこと) percontrātus est(詳しく質問した), multīsque verbīs(多くの言葉が) ultrō citrōque(相互に) habitīs(持たれて) ille(その) nōbīs(我々によって) cosumptus est(費やされた) diēs(一日が).

 

【訳例】

 それから私は彼の王国について、彼は私に我々の国家のことについて詳しく質問した。互いに多くの言葉を費やして、一日を過ごした。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「国家について」第6巻・スキーピオーの夢の冒頭の一節でした。今回も『 キケロー選集 8』(岡道男訳、岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。

「スキーピオーの夢」は、山下先生が『ラテン語を読む キケロー「スキーピオーの夢」』(ペレ出版)を著されているので、前から作品は知っているのですが、通して読んでみたのは今回が初めてです。

読んでみて、まず舞台設定の壮大さに驚きました。ローマの英雄スキーピオー(147年、134年の執政官、スキーピオー・アエミリアヌス)が、夢の中で、義祖父のスキーピオー・アーフリカーヌスから、この世界の真理と国家のあるべき姿、指導者としての心得などについて、話を聞いているのですが、なんとそこは宇宙空間。星をちりばめた天の高みから、球形の地球をはるかに見下ろしています。現代の私たちには、見慣れた光景ですが、改めて古代天文学の水準の高さには驚かされます。

スキーピオーの夢は、第6巻9章から始まりますが、冒頭は、ラエリウスらそれまでの討論メンバーとの会話の続きです。スキーピオーが、大スキーピオーの友人だった北アフリカヌミディアの王マシニッサを訪ねた場面で、「…その日は、わたしたちが互いに多くの話を交わすうちに過ぎた。」と今回の課題のくだりとなりました。

王の歓迎の宴も終わり、旅の疲れもあって、スキーピオーは深い眠りに。夢の中に大スキーピオーが現れて語り始める、という設定でした。

課題に取り組んでいるときは、「多くの言葉を費やして、一日を過ごした」その話の内容がこれから展開されるのかなと思いましたが、大スキーピオーの霊を登場させるための、枕だったんですね。