ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第21回課題(2020.4.18)

練習問題21-5

Cum autem Carthāginem dēlēveris, triumphum ēgeris censorque fueris et obieris lēgātus Aegyptum, Syriam, Asiam, Graeciam, dēligēre iterum consul absens bellumque maximum conficiēs, Numantiam exscindēs.

(クム アウテム カルタギネム デーレーウェリス、トゥリウムプム エーゲリス ケンソルクエ フエリス エト オビエリス レーガートゥス アエギュプトゥム、シリアム、アシアム、グラエキアム、デーリゲーレ イテルム コンスル アブセンス ベルムクエ マクシムム コンフィキエース、ヌマンティアム エクスキンデース)

Cic.Rep.6.11
キケロー「国家について」

Cicero: de Re Publica VI

 

【学習課題】

 動詞3 直接法・能動態・未来完了

 

【語彙と文法解析】

cum 接続詞 ① (真に時を示す)...の時に

autem 接続詞 ① しかし, これに反して, 他方では.② さらに, そのうえ.③ (三段論法で小前提を導いて)ところで, さて(=atqui).

Carthāgō -ginis, f カルターゴー《 (1) アフリカ北岸にあった Phoenicia 人の植民市;ローマに滅ぼされた(前146).
Carthāginemは第3変化名詞 Carthāgō の女性・単数・対格。

dēleō -ēre(不定法)-ēvī(完了形)-ētum(目的分詞), tr(他動詞)① 消し去る, ぬぐい去る.② 全滅させる, 抹殺する, 破壊する.(以下略)
dēlēveris は 第2変化動詞 dēleō の直説法・能動態で二人称・単数・未来完了。あなたが破壊する。

triumphus -ī, m ① 凱旋式, 凱旋行進 〈+gen;ex [de]+abl〉(以下略)
triumphum は第2変化名詞 triumphus の男性・単数・対格。

agō -ere(不定法)ēgī(完了形)actum(目的分詞), tr(他動詞), intr(自動詞)
Ⅰ (tr)① 進める, 導く, 駆りたてる, 追いやる(中略)⑬ (式・祭を)挙行する, 催す
Ⅱ (intr)① 行動する, ふるまう.(以下略)
ēgeris は第3変化動詞 agō の直説法・能動態で、二人称・単数・未来完了。

censor -ōris, m ① 監察官《ローマにおいて戸口調査・風紀取締まりなどをつかさどった;5年ごとに2名選出された》.② 厳格な批評家.
censorque は第3変化名詞 censorの男性・単数・主格(呼格)に前接詞-que(〜と〜、また、そして)がついた形で、ここでは主格。

sum esse fuī, intr Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る(中略)Ⅱ (繋辞として)① ...である(以下略)
fueris は不規則動詞 sum の直説法・能動態で、二人称・単数・未来完了。

et 接続詞、副詞 Ⅰ (conj)① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も ③ そしてまったく, しかも ④ (物語で)そしてそれから (中略) Ⅱ (adv)① ...もまた, 同様に (以下略)

obeō -īre(不定法)-iī(完了形)-itum(目的分詞), tr(他動詞), intr(自動詞) Ⅰ (tr)① 顔を合わせる, 会う.② 巡回する, 訪問する.(中略) Ⅱ (intr)① 向かって行く.(以下略)
obieris は不規則動詞 obeō の直説法・能動態で、二人称・単数・未来完了。

lēgātus -ī, m ① 使節.② (将軍・総督の)副官, 代官.③ (帝政期の)属州総督.
lēgātus は第2変化名詞 lēgātusの男性・単数・主格(述語としての主格)。

Aegyptus -ī, m, f ① (m)〘伝説〙アエギュプトゥス, *アイギュプトス《Belus の息子で Danaus の兄弟;伝説上のエジプト王;その50人の息子は Danaus の50人の娘と結婚した》.② (f)エジプト《しばしばアジアの一部と考えられた》.
Aegyptum は第2変化名詞 Aegyptus の女性・単数(のみ)・対格。

Syria -ae, f シュリア, ∥シリア《小アジアの一地方;通常 Phoenicia と Palaestina を含む》.
Syriam は第1変化名詞 Syria の女性・単数(のみ)・対格。

Asia -ae, f ① アシア, ∥アジア《 (1) 本来は Lydia の町;のちにその周辺地域.(2) 小アジア;特に (a) Pergamum 王国.(b) Troja 王国.(3) Pergamum 王国を遺贈されたローマの属州としてのアシア;当初は Mysia, Lydia, Caria, Phrygia から成った.(4) アジア大陸》.
Asiam は第1変化名詞 Asia の女性・単数(のみ)・対格。

Graecia -ae, f グラエキア, ∥ギリシア Magna ~ (CIC)∥マグナ・グラエキア《ギリシア人が多数の植民市を建設したイタリア南部地方》.
Graeciam は第1変化名詞 Graecia の女性・単数(のみ)・対格。

dēligō -ere(不定法)-lēgī(完了形)-lectum(目的分詞), tr(他動詞) ① 選ぶ, 選択する.(以下略)
dēligēre は第3変化動詞 dēligō の直説法・受動態で、二人称・単数・未来。

iterum 副詞 ① 再び, もう一度 (以下略)

consul -sulis, m 執政官《共和制期ローマの最高官職;毎年2名を選出》
consul は第3変化名詞 consul の男性・単数・主格(呼格)。ここでは主格で、dēligēre の間接目的語。

absens -entis, adj 形容詞(prp 現在分詞)① 不在の.(以下略)
absens は 不規則動詞 absum(離れている;不在である)から派生した現在分詞 absens(第3変化で見出しが1種類のタイプ)の通性中性・単数・主格(呼格)または中性・単数・対格。

bellum -ī, n ① 戦争 ② 戦闘, 会戦.③ 争い, 闘争.(以下略)
bellumque は 第2変化名詞 bellumの中性・単数・主格(呼格)または対格に、前接詞-que(〜と〜、また、そして)がついた形で、ここでは対格。

maximus -a -um, adj(形容詞)superl(最上級の)① 最大の.(以下略)

conficiō -cere(不定法)-fēcī(完了形)-fectum(目的分詞), tr(他動詞) ① 遂行する, 果たす(中略) ⑤ なし遂げる, 成就する.(中略) ⑧ 片づける, 完了する(以下略)
conficiēs は 第3変化動詞B conficiō の直説法・能動態で、二人称・単数・未来。

Numantia -ae, f ヌマンティア《Hispania Tarraconensis の町;小 Scipio に攻略された(前133)》.
Numantiam は第1変化名詞 Numantia の女性・単数(のみ)・対格。

exscindō -ere(不定法)-scidī(完了形)-scissum(目的分詞), tr(他動詞) 破壊する;滅ぼす.
exscindēs は第3変化動詞 exscindō の二人称・単数・未来。

 

【逐語訳】

Cum(〜の時)autem(さらに)Carthāginem(カルターゴーを)dēlēveris(あなたが破壊し), triumphum(凱旋式を)ēgeris(挙行し)censorque(また監察官と)fueris(なり)et(そして)obieris(〜を訪問する)lēgātus(使節として)Aegyptum(エジプト), Syriam(シリア), Asiam(アジア), Graeciam(ギリシャ), dēligēre(選出される)iterum(再び)consul(執政官に)absens(不在の状態で)bellumque(戦争にも)maximum(最大の)conficiēs(終結させ), Numantiam(ヌマンティアを)exscindēs(滅ぼすだろう).

 

【訳例】

さらにあなたはカルターゴーを破壊し、凱旋式を挙げ、また監察官となり、そしてエジプト、シリア、小アジアギリシャ使節として訪問する時、(あなたは)不在のまま再び執政官に選出され、最大の戦争を終結させ、ヌマンティアを滅ぼすだろう。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「国家について」第6巻・スキーピオーの夢 の一節でした。今回も『キケロー選集8』(岡道男訳・岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。

今回は25ワード。今までの課題の中では長文だったので、辞書を引くだけで、教科書もひっくり返したりしつつ、のべ6時間くらいかかったと思います。月末の夏期特別購読会、セネカ「人生の短さについて」第1節のボリュームが気になったので、調べてみると186ワード。私のペースだと、だいたい45時間かかる見当ですね〜。ちょっと、気合いが入りました。

さて、今回の課題文のくだり、英雄スキーピオーの半生を実に25ワードで読者に想起させるあたりが、名文家キケローの面目躍如というところでしょうか。

「スキーピオーの夢」が149年。その2年後、執政官となり、146年カルターゴーを破壊。142年に監察官。134年には立候補していなかったにもかかわらず再び執政官に選出され、翌年ヌマンティアを滅ぼします。そして、134年は、グラックス兄弟の兄ティベリウス護民官に就任した年でもあります。

129年、スキーピオーは急死するのですが、キケローが「国家について」の対話の舞台として設定したのが、まさにその年。解説によれば、当時、ローマはグラックス兄弟を中心とする改革派と、これに対抗する保守派によって国民が二分され、国政が混乱のきわみに陥った時期で、キケローは、積年の内紛によって引き裂かれたローマの再建と国民の再統一(すなわちローマ共和制の再興)を図るために、本書を著し、国家の意義と国民の使命を説いた、ということでした。

今回は、歴史を少し勉強してみたのですが、小スキーピオーは問題のグラックス兄弟の改革に反対だったようで、門閥派(名門貴族を中心とする大土地所有者)と形容する記述も見うけられました。キケロー自身も、課題文の文脈の流れで、大スキーピオーに「私の孫の策謀によって国家が混乱に陥っているのを見出すだろう」と語らせています。
※「私の孫」はグラックス兄弟のことです。

この辺りが、面白いところだと思うのですが、王政、貴族政を否定し、民主政を理想とするキケローも、民主政を実現するローマ共和制=現体制を(本質的な意味で)擁護するあまり、現実の政治的課題については、合理的判断によらず、守旧的に振る舞うような面もあったのでしょうね。