ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第23回課題(2020.5.2)

練習問題23-2

Quis fallere possit amantem?
(クイス ファッレーレ ポッシト アマンテム)

Verg.Aen.4.296
ウェルギリウスアエネーイス

Aeneid IV

 

【学習課題】

 分詞(現在分詞・完了分詞・目的分詞・未来分詞)

 

【語彙と文法解析】

quis quis quid, pron(代名詞)Ⅰ (interrog 疑問詞)① だれ, 何, どれ.(以下略)
quis は疑問代名詞 quis の通性・単数・主格

fallō -ere(不定法)fefellī(完了形)falsum(目的分詞), tr(他動詞) ① 迷わせる, 誤らせる ② 欺く, だます 〈alqm〉.③ (期待を)裏切る, 失望させる(以下略)
fallere は 第3変化動詞 fallō の一人称・単数・不定法。

possum posse不定法)potuī(完了形), intr(自動詞)(tr 他動詞) ① (...することが)できる 〈+inf〉.② 可能性がある.(以下略)
possit は 不規則動詞 possum の接続法・能動態で、三人称・単数・現在。

amans -antis(属格), adj(prp 現在分詞)① (人が)愛している, 愛情深い 〈+gen〉(以下略)
amantem は amōの現在分詞 第3変化形容詞(one-termination)amans の通性・単数・対格。
 

【逐語訳】

Quis(誰が〜だろうか)fallere(欺く)possit(できる)amantem(愛するものを)?

 

【訳例】

誰が愛するものを欺くことができるだろうか?

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第4歌の一節でした。今回も西洋古典叢書アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

アエネーイス」からの課題は今回が3回目。過去2回は後半のいわゆる戦記。前半を読んでみたのは初めてです。1歌から3歌までが拾い読みなので、受け売りですが、難破同然でカルターゴに漂着したアエネーアースは、母である女神ウェヌストロイアの再興を阻止したい女神ユノーの言わば呉越同舟による介入で、女王ディドーに強く愛され、一旦は、建設途上のカルターゴをともに治めていくことになります。

しかし英雄アエネーアースは、イタリアの地にトロイア人の新たな王国を建設する「定め」を背負っている身。最高神ユピテルは、何時にも増して強い言葉でアエネーアースを諭し、警告を与えます。

これに驚愕し、戦慄を覚えたアエネーアースは、ディドーを裏切ることへの後ろめたさを感じつつ、密かに艦隊を整え、カルターゴを離れようと準備を進めるのですが、すぐに女王は策略に気づきます。

「誰も恋するものを欺けない」(岡・高橋訳)とは、女王ディドーがアエネーアースの裏切りに気づいた瞬間なのですね。ここで、恋するものは女王。欺くのはアエネーアース。最初は「愛する相手を欺くようなことはできない」という意味かと思いましたが、違うようです。

一度は、アエネーアースに翻心を嘆願するディドーですが、アエネーアースの不誠実ともいえる態度に絶望し、嘆願は軽蔑と憎悪となり、「まだ見ぬ者よ、わが骨より出て復習者となれ。」と、ローマ史上最強の敵、カルタゴの将軍ハンニバルの出現を予言しつつ、アエネーアースの贈った剣で自決します。

幾重にも、幾重にも伏線が張られ、ローマの繁栄と苦難の歴史を、神々の意志ではあるものの、決して決定論ではなく、読む者に手に汗握らせながら描き出してみせる、文字通りの一大叙事詩です。

 

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アエネーアースの行程(Rcsprinter123 / CC BY