ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第24回課題(2020.5.9)

練習問題24-4

Dēsine fāta deum flectī spērāre precandō.

(デーシネ ファータ デウム フレクティー スペーラーレ プレカンドー)

Verg.Aen.6.376
ウェルギリウスアエネーイス

P. VERGILI MARONIS AENEIDOS LIBER SEXTVS

 

【学習課題】

 動名詞

 

【語彙と文法解析】

dēsinō -ere(不定法)-siī(完了形)-situm(目的分詞), intr(自動詞), tr(他動詞) ① 中止する, やめる 〈(in)re;alcis rei;+inf〉(以下略)
dēsine は 第3変化動詞 dēsinō の命令法で、二人称・単数・現在。

fātum -ī, n ① 神託, 予言.② 神意, 天命.③ 天寿を全うすること, 自然死
④ 運命, 宿命.(以下略)
fāta は 第2変化名詞 fātum の中性・複数・主格または対格。ここでは対格。

deus -ī, m ① 神 (以下略)
deum は 第2変化名詞 deus の男性・単数・対格または複数・属格。

flectō -ere(不定法)flexī(完了形)flexum(目的分詞), tr(他動詞), intr(自動詞) Ⅰ (tr)① 曲げる.② 変える 〈alqm [alqd]〉.(中略) Ⅱ (intr)向かう, 行く, 進む 〈in [ad] alqd〉.
flectī は第3変化動詞 flectō の不定法・受動態で、現在形。

spērō -āre(不定法)-āvī(完了形)-ātum(目的分詞), tr(他動詞)(intr 自動詞) ① 希望する, 期待する 〈abs;alqd;+acc c.inf;ut+subj〉.(以下略)
spērāre は第1変化動詞 spērō の不定法・能動態・現在または命令法・受動態の二人称・単数・現在。ここでは不定法。

precor -ārī(不定法)-ātus sum(完了形), tr, intr dep(形式受動相動詞) ① 祈る, 懇願する 〈alqm [alqd];alqm alqd;alqd ab alqo;ut, ne;+acc c. inf〉.② (よかれ[悪しかれ]と)願う
precandō は第1変化動詞 precor の動名詞 precandum(←現在分詞 precāns)の与格または奪格。ここでは奪格(手段の奪格)。

 

【逐語訳】

Dēsine(やめなさい)fāta(運命を)deum(神々の) flectī(変えられると)spērāre(期待すること)precandō(祈ることによって).

 

【訳例】

神々の運命を祈ることによって変えられると期待することはやめなさい。

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第6歌の一節でした。今回も西洋古典叢書アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

前回に続いて、今回は第6歌。少し前の課題で、「スキーピオーの夢」を読んでみたとき、山下先生から「祖父大スキーピオーが(夢の中で)孫の小スキーピオーの「未来」を予言している」箇所について、これが後の「アエネーイス」第6歌後半で描かれる父アンキーセースとアエネーアースの対話を用意しているかのようで興味深い、と教えていただきました。

なるほど、過去のある時点から現在にいたる歴史を「ふり返る」というのは、考えたことがなかったのですが、これは不可能なんですね。何故なら、単に、過去においては、現在にいたる歴史は、まだ未来ですから。

そこで、ハッと気が付きました。そうか。もし神であれ、タイムマシンであれ、因果律を乗り越えても許容される、何某かの舞台装置があれば、過去のある時点から、未来である(その内容は書き手と読者には既知の)歴史を予言してみせることが可能になる、つまり違和感なく許容させることも出来るわけですね。

アエネーイス」第6歌後半においては、亡き父アンキーセスが、ローマ建国をその身の定めとするアエネーアースに、未来のローマの歴史を築く英雄たち(アルバの王、ロームルス、ブルートゥス、スキーピオー、カエサルアウグストゥス等々)の魂を紹介し、英雄がその壮大な事業への確信を得るという劇的なシーンを、違和感なく描き出してみせます。

課題文の方は、第6歌の前半。亡き父に再会し、未来の開示を受けるため、巫女の導きによって、生きたまま冥界に下ったアエネーアースは、冥界を彷徨う幾多の霊魂と出会うのですが、その一人、パリヌールスは、カルターゴに漂着する前、波にのまれた操舵手。冥界に横たわる川には、渡し守がいて、死後、礼をつくして埋葬されたものだけが、波に運ばれ救われるという掟らしく、川を渡れず彷徨っています。

パリヌールスは、アエネーアースに救いを求めますが、巫女は埋葬されるまでは岸に近づけないのが「神々の定めた運命」であり、変えることはできないと告げ、今回の課題文となりました。

その後、自決した女王ディードーとも再会しますが、言い訳するアエネーアースの言葉に、無言で目も合わず、救いがないのですが、死別した夫シュカエウスと共に去りゆく姿を、涙ながらに見送った、として(割とあっさりと)過去の呪縛を解き放ち、未来の開示へと向かいます。