ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第28回課題(2020.6.6)

練習問題28-5 (※2行目は自習です)

Nītimur in vetitum semper cupimusque negāta.
(ニーティムル イン ウェティトゥム セムペル クピムスクエ ネガータ)
  sīc interdictīs imminet aeger aquīs.
  (シーク インテルディクティース イッミネト アエゲル アクイース

 

Ov.Am.3.4.17
オウィディウス「恋の歌」

Ovid: Amores III

 

【学習課題】

 形式受動態動詞

 

【語彙と文法解析】

nītor -tī nixus [nīsus] sum, intr dep ① 寄りかかる, もたれる 〈re(物・事の奪格);in re;in alqd(物・事の対格)〉② 支えられる, 立っている 〈re〉.③ 信頼する, 頼みにする 〈+abl(奪格)〉(中略) ⑨ 得ようと努力する 〈ad [in] alqd;ut, ne;+inf〉.
nītimur は第3変化動詞(形式受動態動詞) nītor の直説法・受動態・一人称複数現在形で、我々は in <対格> を得ようと努力する。

in prep Ⅰ 〈+abl〉① (空間的)...の中に, ...において, ...に(中略) Ⅱ 〈+acc〉① (空間的)...へ, ...に向かって, ...の方へ, ...の中へ (中略)⑥ (目的または動機を表わして)...のために (以下略)

vetō -āre -tuī -titum, tr 禁止する, 拒否する, 妨げる 〈+acc;+inf;+acc c. inf;ne〉
vetitum は vetōの完了分詞 vetitus の男性・単数・対格または中性・単数・主格(呼格)か対格。ここでは中性・単数・対格で、禁じられたもの。

semper adv 常に, いつでも

cupiō -pere cupīvī [-iī] cupītum, tr ① 切望する, 熱望する 〈alqd;+inf;+acc c.inf;ut, ne〉.② 愛着[好意]を示す 〈+dat〉.
cupimusque は第3変化動詞 cupiō の直説法能動態一人称複数現在形+queの形で、切望もする。

negō -āre -āvī -ātum, tr(intr) Ⅰ (tr)① 否定[否認]する 〈alqd;+acc c. inf〉.② 拒絶[拒否]する, 断わる 〈alqd;+inf〉.③ 禁ずる, 許さない 〈alci alqd;+acc c. inf〉.Ⅱ (intr)否と言う 〈+dat〉.
negāta は第1変化動詞 negōの完了分詞 negātusの女性・単数・主格(呼格)または中性・複数・主格(呼格)か対格。ここでは中性・複数・対格で、拒絶されたもの。

sīc adv ① この[その]ように ② この条件で, この限りで ③ それゆえ, だから.(以下略)

interdictus -a -um, adj(pp)禁じられた.
interdictīs は 完了分詞 interdictus の通性・複数・与格または奪格。aquīsにかかり、女性・複数・与格。

immineō -ēre, intr ① 差し掛かる, 張り出す 〈+dat〉.② おびやかす, 悩ます 〈alci〉.③ 狙っている, 心を傾けている;用心している 〈+dat〉.(以下略)
imminet は第2変化動詞 immineō の三人称・単数・現在形。+与格で、〜に傾倒している。

aeger -grī, m 病人.
aeger は 第2変化名詞 aeger の主格(呼格)。ここでは主格で、病人は。

aqua -ae, f ① 水 (以下略)
aquīs は第1変化名詞 aqua の女性・複数・与格または奪格。ここでは与格。

 

【逐語訳】

Nītimur in(我々は〜を得ようと努力する)vetitum(禁じられたものを) semper (常に)cupimusque(また我々は切望する)negāta(拒絶されたものを).

sic(だから)interdictīs(禁じられた)imminet(傾倒する) aeger(病人は)aquīs(水に).

 

【訳例】

我々は常に禁じられたものを得ようとし、また拒絶されたものを欲する。
だから病人は、禁じられた水を渇望する。

 

(古典の鑑賞)

オウィディウス「恋の歌」の一節でした。今回も『ローマ恋愛詩人集』(中山恒夫編訳・アウロラ叢書)を図書館で借りてきて読んでみました。こちらは市立図書館にはなく、府立図書館にあります。希少本ですね。

この本の装丁が好きで、いつも古本を買おうかと思うのですが、なかなか踏み切れません。何となく大正ロマンを感じる詩集です。

解説を読むと、それもそのはず。ローマの恋愛詩人たちが活躍した時代、特にオウィディウスが当代随一の詩人として人気を博していた頃(前20年頃からおよそ30年間)は、ローマが長い内乱から脱し、人々は「ローマの平和」を謳歌していたので、時代の雰囲気が(大正時代のように)自由闊達で、文化の爛熟していく頃だったのですね。

さて、この「恋の歌」はオウィディウスの代表作の中では、初期の作品です。ラテン文学黄金時代を築き上げたウェルギリウスホラーティウスらの詩作にみられたある種の使命感や、先行する恋愛詩人プロペルティウスらの恋愛詩への真摯な態度は希薄となり、オウィディウスのそれは偉大な叙情詩、教訓詩を前提とした「遊戯」でありパロディーとなっているらしい。(「ラテン文学を学ぶ人のために」世界思想社 より)

エレゲイア詩形は、恋愛詩人たちの叙情詩に対する自己区別=アイデンティティ、詩人としての魂だったようですが、オウィディウスは「恋の歌」の冒頭、自分は荘重な叙情詩を用意していたのに、クピドー(キューピッドのこと)が韻脚を一つ持ち去ってしまったので、仕方ないのでエレゲイア詩形で歌うことにする、とユーモアを込めて宣言します。

逆に言えば、詩の内容はアモル(=恋)の戯れで遊びつつ、形式においては、偉大な先達たちの恋愛詩の伝統を、その博識と研鑽によって厳格に守った、とも言えるでしょう。

で、そのエレゲイア詩形の韻律ですが、また挑戦してみました。エレゲイア詩形とは韻律ヘクサメトロス(六韻律)とペンタメトロス(五韻律)の二行連句から構成されるもの、ということです。

しかし韻律は、言うは易く行うは難し、です。

Nī-ti-mur/ in ve-ti/tum sem/per cu-pi/mus-que ne/gā-ta.
(ニーティムル/ イン ウェティ/トゥム セム/ペル クピ/ムスクエ ネ/ガータ)
(長短短   / 長短短    /長長    /長短短  /長短短   /長短)
sīc int/erdic/tīs im/mi-ne-t ae-ger/ a-qu-īs.
(シーク インテ/ルディク/ティース イッ/ミネト アエゲル/ アクイース
(長長     /長長  /長長     /長短短     /長長)

今回は、読みに長短を揃えてみました。リズムがタンタタ、タンタタと刻めそうなところと、転けそうなところがありますね。(笑)

最近、娘が幼稚園で俳句を習ってきて、何でも五七五にして楽しんでいるようです。ギリシャ人にとっても、ローマ人にとっても、詩の韻律というものは、心地よいものだったんでしょうね。

 

PS.

山下先生に、韻律を直していただきました。1行目OKでした! 初めて韻律分析に成功です。 2行目は、エレゲイア詩形では、ダクチュルス(-v v)を5つではなく、ヘーミエペス(-v v -v v -)が2つとなるそうです。

正解は、以下の通り。

Nī-ti-mur/ in ve-ti/tum sem/per cu-pi/mus-que ne/gā-ta.
(ニーティムル/ イン ウェティ/トゥム セム/ペル クピ/ムスクエ ネ/ガータ)
(長短短   / 長短短    /長長    /長短短  /長短短   /長短)

sīc int/erdic/tīs // im-mi-net / ae-ger a / qu-īs.
(シーク インテ/エルディク/ティース /イッミネト /アエゲル ア/クイース
(長長     / 長長   /長   /長短短   /長短短   /長)

※「//」はカエスーラでペンタメトルスの真ん中に必ず置かれる。

 

参考サイト:
ラテン文学の韻律(2)_Via della Gatta
ディスティコン(distichon):エレゲイアの韻律