練習問題33-5
Quid enim est jūcundius senectūte stīpātā studiīs juventūtis?
(クイドゥ エニム エスト ユークンディウス セネクトゥーテ スティーパーター ストゥディイース ユウェントゥーティス)
Cic.Sen.28
キケロー「老年について」
【学習課題】
代名詞2・その他
【語彙と文法解析】
動詞は est で不規則動詞 sum の直説法・能動態・現在、三人称・単数。「である」
enim は接続詞でしょう。ラテン語の接続詞は2番目に来ることが多いと、先日のラテン語講読の時間に教えて頂きました。「というのも」「確かに」
Quid は疑問代名詞 quis の中性・単数・主格で、「何が」
juventūtis は 第3変化名詞 juventūs の女性・単数・属格。「青春時代の」「若者たちの」
studiīs は第2変化名詞 studium の中性・複数・奪格。「熱意によって」
stīpātā は 第1・第2変化形容詞(完了分詞の受動態 <stīpō)stīpātus の女性・単数・奪格。「取り囲まれた」
senectūte は 第3変化名詞 senectūs の女性・単数・奪格。比較の奪格で「老年より」
jūcundius は 第1・第2変化形容詞 jūcundus の比較級で、中性・単数・主格。「より快い」「より楽しい」
【逐語訳】
Quid(何が)enim(というのも)est(であるか)jūcundius senectūte(老年より楽しい)stīpātā(取り囲まれた)studiīs(熱意によって)juventūtis(若者たちの)?
【訳例】
というのも、若者たちの熱意に取り囲まれた老年より快いものは何であるか?
というのも、若者たちの熱意に取り囲まれた老年より喜ばしいものがあるだろうか?
(古典の鑑賞)
キケロー「老年について」の一節でした。今回は、とうとう『老年について 友情について』(大西英文訳、講談社学術文庫)をKindle版で購入して読んでみました。4月で還暦を迎えた記念です。(笑)
「老年について 友情について」は今回で4回目。キケローの老年論は快活なので、シニアに足を踏み入れんとする私には、応援歌です。
キケローが62歳頃の作品らしく、今の私より2歳年上ですが、キケローは史上最年少の法定年齢 43歳で執政官まで上り詰め、共和制末期の激動期を政治の中枢で生きたわけで、もちろん凡庸な人生を送りつつ、老年を迎えようとしている私などとは、全く生きる世界が違うのですが。
まあしかし、古今東西、「老い」は、人間にとって普遍的なテーマですから、「老年について」はキケローの作品の中では「友情について」とともに最もポピュラーな作品として、多くの人々に愛されているようです。
さて、キケローは、老年が惨めなものと映る理由として、(1)諸々の活動から身を引かされ、(2)肉体が衰え、(3)快楽を奪い去され、(4)死が間近であることを挙げ、その各々について豊富なエピソードを交えて、反駁していきます。
まず、老人は、実際には幅広く社会の活動に携わっていることを例示し、また、国政の指導、若者の教育など、老人にふさわしい仕事があり、それは、歳を重ねてこそ得られる老人の精神力、賢慮、理性の力によるのだ、とします。
確かに、歳をとると、記憶力も体力も衰える。ただし、それは鍛錬を怠ったり、生来、魯鈍である場合である、とさすがに手厳しいのですが、まあ実際は、やみくもな体力を必要とすることもなく、むしろ、自分のもてる力相応のことをするのが、ふさわしい行動というものである、と説きます。
次に、快楽ですが、精神にとって快楽ほど危険な敵はない、といつものエピクロス派への批判を展開する一方、老人も相応の快楽を享受できるし、過度にならない分老人に分があるとし、何より精神的快楽を得られる学問や農作の営みは、青年の快楽をすべて集めても及ばない価値がある、云々。
死については、結局、どの年代についても共通のもので、死は自然の必然、摂理であり、賢明な人間なら従容として受け入れるべきだとし、個体は死すとも、世代交代を繰り返す、悠久の自然の営みに思いを馳せます。
で、今回の課題文。老人にふさわしく、また老人の喜びでもある行為として若者の教育への役割を説く場面なのですが、つまりは、世代交代。生涯にはそれぞれの時期に意味があり、ここから青春だけ、老年だけを切り離してみる世代観は無意味である、ということのようです。
jūcundius は「より楽しい」ですが、老人の眼差しの向こうにあるものは、若者たちの未来、100年後の社会のすがたと思えば、もう少し目線が高くなりますね。
「実際、若者の情熱に囲まれた老年ほど喜ばしいものが他に何かあるだろうか」(大西訳)
ラテン語に出会えて良かったと思える瞬間です。
【キケロー著作年表】
- 弁論家について(55年)
- 国家について(54年-51年)
- 法律について(51年。未完)
- ブルートゥス(46年)
- ストア派のパラドックス(46年)
- ホルテンシウス(45年春。散逸)
- 善と悪の究極について(45年5-6月)
- アカデミカ(45年5-6月)
- トゥスクルム荘対談集(45年6-8月)
- 神々の本性について(45年6-8月)
- 大カトー・老年について(44年。3月15日のカエサル暗殺より以前)
- 占いについて(第2巻以降は44年3月15日以後)
- 宿命について(44年5-6月)
- ラエリウス・友情について(44年夏または初秋)
- 義務について(44年10月末-11月)
- ピリッピカ(44年9月-43年4月)