ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第27回課題(2021.3.27)

練習問題29-4

Dulce et decōrum est prō patriā morī.
(デュルケ エト デコールム エスト プロー パトリアー モリー

Hor.Carm.3.2.13

ホラーティウス「カルミナ」

Horace: Odes III

 

【学習課題】

動詞4 不定

 

【語彙と文法解析】

動詞は est で不規則動詞 sum の直接法・能動態・現在、三人称・単数。「〜である」

構文は、dulce と decōrum は prō patriā morī である、かな。逆に、prō patriā morī は dulce で decōrum である、かも。

とりあえず morī がキーになると思い、辞書引き。第3変化動詞B morior の不定法でした。「死すことは」で文の主語かな。

patriā は 第1変化名詞 patria の女性・単数・奪格。「祖国において」など。

prō は 前置詞 で +奪格で 「〜のために」など。ここでは、prō patriā で「祖国のために」か。

Dulce は第3変化形容詞 dulcis の中性・単数・主格(呼格)または対格。ここでは文の補語で主格。形容詞の名詞的用法。「甘い」「快い」

最初、副詞と思いました。副詞は基本、補語にならないかな。山下先生のコメント添えます。不定法は中性・単数で受けるんですね。

主語morīが不定法・現在なので、補語となるdulceは中性・単数で受けます。
decōrumも同様です。
例)Errāre hūmānum est. (間違うことは人間的である)のhūmānumは「中性・単数・主格」となります。

et は 接続詞で「そして」

decōrum は 第1・第2変化形容詞 decōrum の中性・単数・主格(呼格)または対格。ここでは文の補語で主格。「美しい」

 

【逐語訳】

 Dulce(快く)et(そして)decōrum(美しい)est(である)prō patriā(祖国のために)morī(死すことは).

 

【訳例】

祖国のために死すことは快くそして美しい。

 

(古典の鑑賞)

ホラーティウス『カルミナ(歌章)』の第3巻の一節でした。今回も『ホラティウス全集』(鈴木一郎訳、玉川大学出版部)を図書館で借りてきて読んでみました。

ウェルギリウスといえば「アエネーイス」、ホラーティウスといえば「カルミナ」と言われるくらいのホラーティウスの代表作です。全4巻ですが、1〜3巻が前23年に公表され、4巻は前14〜13年と少し時期がずれます。

世は、オクターウィアーヌスがローマ帝政の基盤を固めつつある時代。より大きくとらえれば、アクティウムの海戦に勝利(前31年)して、プトレマイオス朝に終止符をうった、ヘレニズムからパックス・ロマーナへの移行期です。

ヘレニズム時代は、言わばギリシャ文化の世界で、共和制ローマの時代から、カエサルをはじめ、ローマの指導者たちは、アレクサンドリアを訪れ、前3世紀には建設されていた図書館の膨大な量のギリシャ語の図書を眼前にして、覇権を広げるローマにふさわしい新しい文化の拠点として、ローマに図書館の建設を夢見たのでした。

前28年、完成した図書館には、ギリシャ語図書の部とラテン語図書の部があったそうですが、地中海世界の覇者となった帝政ローマにとって、ラテン語図書の充実が求められたのは、当然でしょうね。この時期、「ローマ建国史」(リヴィウス)、「事物の本性について」(ルクレティウス)、「アエネーイス」(ウェルギリウス)などローマ文学の巨星が一斉に登場したのも、偶然ではないでしょう。

実は、ホラーティウスの庇護者、マエケーナースはオクターウィアーヌスの参謀を務めた人物で、軍事のアグリッパ、外交・文化のマエケーナースと伝えられているのですが、マエケーナースの周りに出来た文人サークルには、ウェルギリウスをはじめ当時の文化人が集い、ホラーティウスウェルギリウスらとの出会いを通じて、このサークルに参加することになったのでした。

カルミナは、こうしてローマ詩壇に活躍の場を得たホラーティウスの目を通して、激動期とも言える時代を、少し引いた目線で、やや面白がって見つめた詩人の作品として、とても魅力的な詩集となっていて、ローマ史とともに学ぶといろいろ発見がありそうです。

さて、課題文の方ですが、カルミナ第3巻の2の一節で、第3巻の1から6までは、特にアウグストゥスの強い意向による、とも言われ、6歌とも市民にローマの伝統的な倫理観を説く、やや官製の説教調の、いわばホラーティウスらしくない詩調となっているのが、個人的には残念なところではあります。

まあ、しかしながら、カルミナから6年後、ホラーティウスは「ローマ百年祭」の讃歌を依頼され、詩壇の頂点に上り詰めたのでした。

マエケーナースは、その死に際して、皇帝に「私のことのようにホラーティウスのことをよろしく」と頼んだそうです。マエケーナースは、ホラーティウスにもう一度、「諷刺詩」の時代のような詩を、書いて欲しかったのではないかなと、ふと思いました。

 

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ホラティウス全集」796ページの圧巻です