ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第36回課題(2021.6.5)

練習問題38-2

Nōminibus mollīre licet mala.
(ノーミニブス モッリーレ リケト マラ

Ov.A.A.2.657

オウィディウス「恋愛術」

Ovid: Ars Amatoria II

 

【学習課題】

様々な構文 1 非人称構文

 

【語彙と文法解析】

動詞は licet でしょう。第2変化動詞 licet -ēre の直説法・能動態・現在 三人称単数で、+不定法で「〜することが許されている」

mollīre は動詞の不定法ですね。第4変化動詞 molliō -īre の不定法で、「和らげること、緩和すること」

Nōminibus は第3変化名詞(中性)nōmen の複数・与格または奪格。ここでは動詞が間接目的語をとらないので奪格(手段の奪格)で「名前によって」。

mala は目的語でしょう。おそらく単数ではないので、verbum, verbaの変化だとして、malum で辞書引き。第2変化名詞 malum の中性・複数・主格(呼格)または対格。ここでは対格で「欠点を」

非人称構文で、licet は主語が不定法、人が与格ですが、「〜にとって」の与格は省略されています。つまり一般論なので、特に誰ということはないのでしょう

 

【逐語訳】

Nōminibus(名前によって)mollīre(和らげることが)licet(許されている)mala(欠点を).

 

【訳例】

名前によって欠点を和らげることが許されている。

 

(古典の鑑賞)

オウィディウス「恋愛術」第2巻の一節でした。今回も『恋愛指南ーアルス・アマトリアー』(沓掛良彦岩波文庫)を図書館で借りてきて読んでみました。

何冊か一緒に借りたのですが、この本の装丁、表紙が「マイナデスを誘惑するサテュロス」という名のポンペイ壁画(一世紀)となっていて、少し刺激的と思われたのか、本を重ねるときに、すっと下の方に入れて(隠して)くれました。かえって、こちらが恥ずかしくなりますよね。(笑)

さて、「恋愛術」からの課題は5回目、この課題文も2回目です。最初の頃は、単語は辞書の丸写し。感想文は、解説の紹介だったり、ストーリーを追ってみたりでしたが、最近は、作品そのものを少し楽しめるようになってきたような気がします。

もともと、日本文学からして、素養の無い私、ラテン文学でもないのですが、まあギリギリ、ギリシャ哲学に関心があったので、何とか興味を持てるかなと頑張っているうちに、『牧歌・農耕詩』(河津千代訳)に出会い、河津先生の『詩人と皇帝』を読んでみたあたりから、ラテン文学そのものに、興味が持てるようになってきたようです。

で、この作品ですが、ネットではあまり評判がよろしくありません。まあ、オウィディウスに興味がなければ、読まなければいいわけですが、何かの拍子で読まれた方が、なんだかただの猥雑な作品じゃないかと感じられるのも、わかります。

一方の代表作の『変身物語』がある意味、難解な作品である分、古典作品としての「ありがたみ」を感じられるのに対して、この作品は「わかりやすい」ので、ある種ホッとするというか、コメントしやすい作品、という面もあるでしょうね。

とはいえ、この作品、ローマ文学が歴史に誇る恋愛教訓詩です。話が脱線しますが、映画「プラダを着た女」で、強烈な個性を放つ編集長が、編集者を目指す主人公のファッションへの無知を小気味よいテンポで喝破するシーンがありますよね。世に「セルリアン説法」とも呼ばれているようですが、私のお気に入りの名シーンです。

説明すると長くなりそうですが、要は世の中に広く流通し、何気なく目にしているものでも、デザイナーによって緻密に計画され、巨大な生産・流通システムを経て、最後にあなたの目にふれたものなのよ、あなたは知らないでしょうけど、というお話です。

最近、よく思うのですが、この2千年も前の作品を、どうして私が読んでいるのか、不思議ですよね。それは、歴史の淘汰に耐えた作品、吟味され、さまざまに解釈され、後世の名だたる思想家、芸術家、社会の指導者たちに計り知れない影響を与えてきた作品なのですよね。

だから何だということもないのですが、ラテン文学にふれること、ラテン語を学ぶということは、その歴史の重みを感じること、なんじゃないかなと。

まあ、そういうことも、考えてみると、また作品を見る目も変わってくるかも知れません。昔、朝日新聞に「世界 名画の旅」という連載があったのですが、レジェの「余暇」という作品について「人物の表情なんかに大した意味はない。レジェが苦しんだのはコントラストだ。」と語られる文脈がありました。

オウィディウスにとっても、アルス・アマトリア=恋の技法は単なる素材に過ぎなかった、というと言い過ぎでしょうか。オウィディウスが腐心したのは、恋の歌を格式あるエレゲイア詩として確立すること。

そして、オウィディウスの名を後世に留めたのは、まさに、この作品で、それまでの「恋愛詩」とは異なる新たなジャンル、ローマ恋愛詩の正統、エレゲイア詩形を打ち立てた、という功績によるのです。

目の前に普通にあるものの、真の輝きが見えてくる。それが、学ぶということの意味であり、楽しさでもありますね。

 

 

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