ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第3回課題(2021.7.17)

練習問題5-5

Sōlus meārum miseriārum est remedium.
(ソールス メアールム ミセリアールム エスト レメディウム

Ter.Ad.294

テレンティウス「兄弟」

 

【学習課題】

名詞と形容詞1 3 第1・第2変化形容詞

 

【語彙と文法解析】

動詞は est、不規則動詞sumの三人称単数現在。〜である。

Sōlus は第1・第2変化形容詞 sōlusの男性単数主格。一人の(彼は ille)※ille は省略された指示代名詞

meārum は所有形容詞 meusの女性複数属格。私の

miseriārum は第1変化名詞miseriaの女性複数属格。苦悩

remedium は第2変化名詞 remedium の中性単数主格(呼格)または対格。ここでは主格補語。救済

 

【逐語訳】

Sōlus((彼は)ただ一人の者として) meārum(私の) miseriārum(苦悩の) est(である) remedium(救済).

 

【訳例】

 彼だけが私の苦悩の救済である。

 

(文法を楽しむ)

学習課題は、第1・第2変化形容詞でした。

これは、第1変化名詞、第2変化名詞のように変化するので、とりあえず 第2変化の男性名詞の語尾 -us を持つ Sōlusがポイントでしょう。

-us は 第1・第2変化形容詞の男性単数主格の語尾なので、たぶん、主語となる名詞(男性単数主格)を修飾しているはず、と思い、男性名詞が出てくるか、気に掛けておきます。

次は、語尾 -ārum が2つ、目に付きます。これは、第1変化名詞の複数属格のかたちですね。(第2変化名詞の複数属格は、-ōrumでした。)

所有形容詞のうち、meus(私の)、tuus(あなたの)、suus(彼の 彼女の etc.)は第1・第2変化形容詞のように変化するので、meārum は meus の女性複数属格です。つまり、かかる先の名詞が女性複数属格となるので、語尾のかたちが同じ、次の meseriārum を修飾していそうです。「私の」

一方の miseriārum の単数主格は 普通に miseria で、第1変化名詞の女性複数属格のかたちです。「苦悩の」

動詞は est で不規則動詞 sum の三人称単数現在。「〜である」

最後に、remedium は語尾 -um から第2変化の中性名詞のようです。中性単数主格(呼格)または対格ですが、動詞が対格を求めないので、ここでは主格。文の補語で、主格補語ですね。「救済」

で、結局、Sōlus のかかる男性名詞は出てきませんでした。ここで動詞 est が三人称単数であることに着目すれば、文の主語は指示代名詞 ille(彼は)で、この主語が省略されているのでは、と推測できます。

ところで、Sōlus は「一人の」を意味する形容詞ですが、「一人の(彼は)」では少し納まりが悪いですね。それで何か形容詞の用法があるのかなと教科書を確認すると、「形容詞の副詞的用法」というのがありました。直訳では、「ただ一人の者として彼は救済である」となるようです。つまり「彼だけが救済である」ですね。

 

課題文の出典は、テレンティウス「兄弟」の第三幕第一場の一節。今回も『テレンティウス ローマ喜劇集5』(西洋古典叢書)を府立図書館で借りてきて読んでみました。「兄弟」は山下先生のご翻訳です。

この作品は、今回で3回目。子どものころ好きだった藤山寛美松竹新喜劇の世界そのもので、山下先生のご苦労の賜物と思いますが、現代の私たちにとっても、大変親しみ安い、楽しい読み物になっています。

この場面は、やや込み入っていて、兄アエスキヌスは、弟の恋人を女衒から少々荒っぽいやり方で奪い返したのですが、それを伝え聞いたアエスキヌスの婚約者の母ソストラタは、心配しつつも、娘の将来を託したアエスキヌスを信じて、奴隷のカンタラと話し合っている場面です。

ソストラダ「今となっては、あの人だけが、私の悲しみの救い主なのです」

カンタラ「・・・あんな間違いがあったにせよ、相手として見れば、立派で気だてもよく、またあれだけの家柄のご出身です。」

ソストラダ「・・・神様、どうか、あの人が無事でいてくれますように。」

ちなみにですが、「私の悲しみ」というのは、ソストラダ自身の結婚生活の、決して幸福とは言えない境遇からきている言葉のようです。「兄弟」の前章の「義母」から話が続いているのですね。

 

 

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