ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第13回課題(2019.9.28)

練習問題25-2

Nunc est bibendum, nunc pede līberō pulsanda tellūs.

Hor.Carm.1.37.1
Q. HORATI FLACCI CARMINVM LIBER PRIMVS
ホラ−ティウス「カルミナ」

Horace: Odes I

 

【語彙と文法解析】

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nunc adv(副詞) ① 今, 現在 ② (近い過去)今しがた, たった今.③ (近い未来)今から, すぐに.④~...~ ∥ある時は...(また)ある時は..., 時には...時には....(以下略)

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sum esse不定詞)fuī(完了形), intr(自動詞)
Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る (以下略)
Ⅱ (繋辞として)① ...である (以下略)

est は 不規則動詞 sum の直説法・能動態・3人称・単数・現在

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bibō -ere(不定詞)bibī(完了形)bibitum(スピーヌム), tr(自動詞)intr(他動詞)
① 飲む ② 吸い込む, 吸収する

bibendum は第3変化動詞 bibō の動形容詞(bibō→bibēns 現在分詞→bibendum 動名詞→bibendus, bibenda, bibendum 動形容詞)で、第1・第2変化形容詞、男性・単数・対格、または中性・単数・主格(呼格)か対格。
ここでは、動形容詞の非人称表現なので、中性・単数・対格。主格は省略されている。

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pēs pedis(属格), m(男性) ① 足 ② (卓・椅子などの)脚;(ものの)最下部.(以下略)。
pede は 第3変化名詞 pēs の男性・単数・奪格

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līber -era(女性) -erum(中性), adj(形容詞) ① 自由な.② 独立した (以下略)

līberō は第1・第2変化形容詞 līber の男性・単数・与格または奪格、あるいは中性・単数・与格または奪格。
ここでは、pede に合わせて、男性・単数・奪格

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pulsō -āre(不定詞) -āvī(完了) -ātum(スピーヌム), tr(他動詞) ① 打つ, たたく.② (楽器を)弾く, はじく.③ 押し出す, 駆りたてる.

pulsanda は 第1変化動詞 pulsō の動形容詞(pulsō→pulsandī 現在分詞→pulsanda 動名詞→pulsandus, pulsanda, pulsandum 動形容詞)で、第1・第2変化形容詞、女性・単数・主格(呼格)。
ここでは、tellūs に合わせて 女性・単数・主格

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tellūs -ūris(属格), f(女性)[Gk](ギリシャ語) ① 大地, 地;土地, 地面.② (T-)〘神話〙テッルース《ローマの地母神》;母なる大地(=terra mater).③ 領地, 地方, 国.

tellūs は 第3変化名詞 tellūs の女性・単数・主格

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【逐語訳】

Nunc(今こそ)est bibendum((酒を)飲むべきである), nunc(今こそ)pede līberō(自由な足によって)pulsanda(打ちたたかれるべき)tellūs(大地は).

 

【訳例】

今こそ、飲むべきだ。今こそ、自由な足(どり)で、大地は打ちたたかれるべきだ。

今こそ、(酒)飲むべき(とき)だ。今こそ、足も軽やかに大地を蹴って踊るべき(とき)だ。

 

(古典の鑑賞)
ホラーティウス「カルミナ」の第1巻 37歌、冒頭の一節でした。

欧米では有名なフレーズらしく、とあるブログに「Nunc est bibendum」が1898年のミシュランのポスターでキャッチコピーとして使われたという記事がありました。

「人生を楽しもう!」というほどの意味らしく、ホラーティウス詩篇も、「この世に生きているうちに、楽しめるだけ楽しもう!」 くらいの格言として受け止められているようでした。

今回は、「歌章」(現代思潮社、藤井昇訳)を図書館で借りて読んでみました。第1巻 37歌は、紀元前30年カエサルがアレクサンドレアーに入城したときの、ローマの喜びの感情を歌った詩とのことでした。

訳者は謙遜されて、ホラーティウスの詩文を訳出することのむずかしさを解説されていますが、大変格調高い詩文に感じられ、ホラーティウスの愛したというギリシャ詩のアルカイオス詩形の詩韻の美しさとはこのようなものかと、感じさせてくれました。

ちなみに、今回の課題文の訳は以下のようになっていました。

「今こそ酒飲むときだ。今こそ足ものびやかに地を搏ちて踊るときだ」

実際、この冒頭部分は、アルカイオスが僭主ミュルシロスの死にさいして、(暴君の死を祝って)歌った詩句の模倣と考えられているようです。

ところで、わが家にも昔パリを旅行したときに買ってきたミシュランのキャラクターのぬいぐるみがあるのですが「ビバンダム(飲むべし)」くんというんですね。

上記のポスター、「今ぞ飲むべし!」と “オダ” を挙げながら、ビバンダムくんが飲んでいるのは、実は “釘やガラス片” 。「ミシュランのタイヤは、釘やガラスを飲み込んでも平気です」というのがオチらしい。

まこと、ラテン文学は欧米人の感覚のベースのようなものなんでしょうね。日本でいうと「驕れる人も久しからず」みたいな感じかな〜。

文法では、私の辞書では、動詞から動形容詞への変化が分からず、先生のテキストをよく読みなおして、ようやく合点がいきました。

今回も、苦労しましたが、楽しんで学習できました。

 

第12回課題(2019.9.21)

練習問題23-3

Audentēs Fortūna juvat.

 

Verg.Aen.10.284

Vergilius, Aenēis

ウェルギリウスアエネーイス

P. VERGILI MARONIS AENEIDOS LIBER DECIMVS

 

【語彙と文法解析】

audeō -ēre(不定法) ausus(完了) sum(スピーヌム), tr(他動詞), intr(自動詞) ① ...する気がある, ...したい 〈+inf〉.② 思い切って[あえて]する

audentēs は 第2変化動詞 audeō の 現在分詞 audens の 男性・女性形複数の主格(呼格)または対格

ここでは、juvō の 目的語で 対格。現在分詞の名詞的用法。

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Fortūna -ae, 女性 ① 運, 運命. ② 幸運. ③ 不幸, 不運. ④ (F-)〘神話〙フォルトゥーナ《ローマの運命の女神;ギリシア神話の Tyche に当たる》.(以下略)

Fortūna は 第1変化名詞(固有名詞)の単数(単数のみ)で、主格(呼格)または奪格

ここでは、主格。
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juvō -āre(不定法), jūvī(完了) jūtum(スピーヌム), tr(他動詞)
① 助ける, 援助する, 助力する 〈alqm(人の対格) [alqd](物・事の対格)〉.② 役立つ, 有益である.③ 喜ばせる

juvat は 第1変化動詞 juvō の直説法能動態三人称単数現在。

 

【逐語訳】

 Audentēs(思い切って行う者たちを) Fortūna(運命の女神は) juvat(助ける).

 

【訳例】

運命の女神は勇者(たち)を助ける。

 

(古典の鑑賞)

ウェルギリウスアエネーイス」第10歌の一節でした。京都大学学術出版会のものを図書館で借りてきて読んでみました。

第10歌はユッピテルとウェヌス、そしてユーノの対話から始まります。子どもの頃、天文ファンだった私にとっては、ジュビター(木星)、ヴィーナス(金星)、ジュノー(小惑星のひとつ)と言った方がなじみがあるギリシャ神話の神々でした。

叙事詩を神話とパラレルに描くことで、作家は、同時代の歴史を「運命に定められた」ものとして描き出し、結果として、ウェルギリウスの庇護者であったアウグストゥスの権威を高める効果を期待したようです。

それにしても、過去から未来までを俯瞰して語り合う神々の言葉は、何度読み返しても、登場人物、出来事、因果関係が神話と史実が錯綜して、若い頃、ロシア文学を拾い読みしたときの読後感を思い出しました。(汗)

解説(高橋宏幸)を読んでも、基礎的なギリシャ神話とギリシャ・ローマ古代史の知識が前提とされているようで、マインドマップに登場人物を整理したり、ウィキペディアや「ギリシャ・ローマ古典文学案内」(岩波文庫)や「ヨーロッパ文学の読み方ー古典編」(放送大学)を参照しました。それでも、何となくしっくり来ないので、ネットで紹介されていた映画「TOROY」(主演ブラッド・ピット)も観てみました。

映画を観てから、第10歌と解説を何度か読み返すと、次第に登場人物やストーリーが暗黙知とする神話や史実が少しみえてきたような気がしました。

が、それはそれで、疑問は深まるばかり。今回の課題、「アエネーイス」の一節なので、てっきりアエネーアスの言葉だと思っていたら、訳本を読むと、トゥルヌスの言葉でした。また、「アエネーイス」第7歌から12歌は「イリアス」をモチーフにしているということで、怒りの主体アエネーアスがアキレスのイメージかと思うと、むしろ「いまやラティウムにもう一人のアキレスが生まれた」(第6歌88-89)のくだりで、アキレスはトゥルヌスと対比されているよう。では、アエネーアスはヘクトルかというとそれも違う。神話とのパラレルと視点の錯綜は、一筋縄では解けなそうです。

今回の課題は3語でしたが、これを提出までに1週間かかりました。ラテン文学の世界、畏るべしです。

苦労はしましたが、ラテン語の学びの深さを垣間見たようで、楽しい一週間となりました。

 

 

第11回課題(2019.9.14)

練習問題21-4

Sī haec in animō cōgitāre volēs, et mihi et tibi et illīs dēmpseris molestiam.

Ter.Ad.817-819 Terentius, Adelphoe

テレンティウス「兄弟」

Terence: Adelphoe

 

【語彙と文法解析】

sī /接続詞 もし...ならば.
Ⅰ (+直接法)(単純な可能性) 
Ⅱ (+接続法)① (2 sg(2番目にくる単数の) の定動詞と用いられて一般的条件を表わす)② (過去の繰り返された行為)③ (+現在形;+完了形)(可能性はあるものの見込みのなさそうな[本当らしくない]仮定)(以下略)

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hic haec 女性 hoc 中性,  /形容詞, 指示代名詞 
Ⅰ (形容詞) ① この, ここの, ここにある.② 今の, 現在の;最近の ③ 問題の, 例の;今述べたばかりの ④ 次の(ような), 以下の.⑤ この種の, このような.
Ⅱ (代名詞) ① これ, この人;(n pl)現在の状態, 現時点;(m pl)この場所[時代]の人々.② 今述べたばかりのこと ③ これから述べようとすること(以下略)

haec は 指示代名詞 hic の女性・単数・主格または 中性・複数・主格または中性・複数・対格。ここでは、中性・複数・対格で、cōgitāre の目的語。これらの(今述べたばかりの)ことを。

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in /前置詞
Ⅰ 〈+奪格〉
① (空間的)...の中に, ...において, ...に ② (時間的)...の間に, ...のうちに, ...に ③ (ある状況・状態など)...で, ...において, ...のもとで (以下略)
⑥ ...でありながら
Ⅱ 〈+対格〉
① (空間的)...へ, ...に向かって, ...の方へ, ...の中へ ② (ある状況・状態など)...へ 
③ (時間的)...の間;...まで;...に ④ (態度・行動・感情など)...に対して, ...に向かって (以下略)

ここでは、〈+奪格〉で、〜において、〜の中で。

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animus -ī 属格, m 男性(呼格 animī)
① (corpus 肉体に対する)精神 ② 心 ③ 性質, 気質(以下略)

animō は 第2変化名詞 animus の男性・単数・与格または奪格。ここでは、奪格で、心の中で。

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cōgitō -āre 不定法 -āvī 完了 -ātum 目的分詞 /他動詞, 自動詞
① 考える, 思考する;熟考する ② ...の考え[心情]をもつ 〈+副詞〉 ③ 意図する, 計画する

cōgitāre は 第1変化動詞 cōgitō の不定法で、考えること。

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volō velle voluī, /他動詞, 自動詞
① 欲する, 望む, 願う ② 定める, 命じる ③ (しかじかの)意見[見解]を持つ, 主張する(以下略)
volēs は 不規則動詞(命令法なし) volō の 直接法・能動態・二人称単数未来で、あなたが(←省略されている)望めば。

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et /接続詞, 副詞
Ⅰ (接続詞)
① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も ③ そしてまったく, しかも(以下略)
Ⅱ (副詞)
① ...もまた, 同様に ② non solum [modo, tantum] ... sed et ... ...ばかりでなく...もまた ③ たとえ...でも(以下略)

ここでは、接続詞で、〜と〜。

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egō /人称代名詞 (一人称)私.

mihi は 人称代名詞 egō の 一人称・与格。私。
また
tibi は 人称代名詞 egō の 二人称・与格。あなた。

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ille illa 女性 illud 中性 /人称代名詞, 指示形容詞
Ⅰ (形容詞)① あの, その.② そこの, あそこの.③ 当時の, 以前の.(以下略)
Ⅱ (代名詞)
① あれ, それ, あの人, その人, 彼, 彼女 ② 以下のこと.③ 例の[周知の]人[もの, こと].

illīs は 人称代名詞 ille の 女性・複数・与格または奪格。ここでは与格で、彼ら。

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dēmō -ere 不定法 dempsī 完了 demptum 目的分詞 /他動詞
取り去る, 取り除く

dēmpseris は 第3変化動詞 dēmō の 直接法・能動態・未来完了・二人称単数。ここでは、〈alci 人の与格〉から〈alqd 物・事の対格〉を 取り除くだろう。

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molestia -ae 属格, f 男性
① 不快感, 煩わしさ ② (文体の)わざとらしさ, 気取り.

molestiam は 第1変化名詞 molestia の 女性・単数・対格。

 

【逐語訳】

 Sī(もし〜ならば) haec(これらの今述べたばかりのことを) in animō(心の中で) cōgitāre(考えることを) volēs(望めば), et mihi(私と) et tibi(あなたと) et illīs(彼らと) dēmpseris(取り除くだろう) molestiam(煩わしさを).

 

【訳例】

もし、これらの(今述べたばかりの)ことを(あなたが)心の中で考えることを望むならば、私とあなたと彼らから煩わしさを取り除くだろう。

 

(古典の鑑賞)

テレンティウス「兄弟」の一節(第五幕第三場)でした。図書館で借りてきた「ローマ喜劇集5」(京都大学学術出版会)に集録の「兄弟」(山下先生の翻訳されたものでした!)を拝読しました。

「デメア、このことは、よくよく考えてみれば、わしやあんた、それに二人の息子の厄介ごとを、みんなまとめて解決してくれるんだ。」(原文「haec si uoles in animo uere cogitare, Demea, et mihi et tibi et illis dempseris molestiam.」The Latin Libraryより)

私は一人っ子なので、兄弟の間の感情の機微がわかりませんが、それでも、老兄弟、デメア(兄)とミキオ(弟)の兄弟ならではの本音トークを、まるで現代劇のように、楽しませていただきました。

haec(これらのこと)とは、いろいろ厄介ごとがあって、お金も無駄にしたけど、それは私(ミキオ)がすべて何とかするので、それでいいだろう?と、ミキオがデメアの憤りを沈めようとした文脈です。

そう言われると、「金の話はどうでもいい」と言いたくなるのが人情というもの。「だいだい、おまえのそういう態度が、一家を破滅させないか心配なんだ」(意訳)と切り返します。このあたり、いかにも兄弟げんかにありそうなリアリティがあって、とても楽しめました。

 

第10回課題(2019.9.7)

練習問題19-5

Librī quōsdam ad scientiam, quōsdam ad insāniam dēdūxēre.

Francesco Petrarca(De remediis utriusque Fortune, 43 Librorum copia magna est.)
フランチェスコ・ペトラルカ(「幸運と不運の処方箋」多くの書物 )

 

【語彙と文法解析】

liber  -brī, m ① 樹皮, 靱皮じんぴ.② 書物, 本, 文書;巻, 編.③ (pl)予言書(以下略)
Librī は 第2変化名詞 Liber の 男性・単数・属格または男性・複数・主格(呼格)

quīdam  f quaedam   n quiddam(pron),quoddam(adj) Ⅰ (関係代名詞)だれか, 何か, ある人[物] Ⅱ (形容詞) ① ある...の, 何らかの.② 一種の, いわば
quōsdam は ここでは 不定代名詞 quīdam の 男性・複数・対格

ad  prep〈+acc〉 ① (空間的)...の方へ, ...に向かって.② ...に, ...において, ...の近くに.③ (時間的)...まで.(以下略)

scientia   -ae, f ① 知っていること.② 知識, 心得.③ 学識, 博識.
scientiam は 第1変化名詞 scientia の単数・女性・対格

insānia  -ae, f ① 狂気, 錯乱.② 熱狂.(以下略)
insāniam は 第1変化名詞 īnsānia の女性・単数・対格

dēdūcō  -ere -duxī -ductum, tr ① 引き下ろす.② (部隊を)率いて下る.③ (船を)出帆させる, 進水させる.(中略) ⑰ (ある状態・立場へ)導く, 移す(以下略)
dēdūxēre は 第3変化動詞 dēdūcō の直説法能動態三人称複数完了形

 

【逐語訳】

Librī(書物は) quōsdam(ある人々を) ad scientiam(博識に), quōsdam(ある人々を) ad insāniam(狂気に) dēdūxēre(導く).

 

【訳例】

書物はある人々を博識に、ある人々を狂気に導く。

 

(古典の鑑賞)

フランチェスコ・ペトラルカの「De remediis utriusque Fortune(幸運と不運の処方箋)」の一節でした。邦題は調べても分からなかったので、こんな感じかなと。

多くの本を所有していることを自慢する Joy に対して、Reason は 私たちの心は、私たちの胃のように、空腹よりも過食によって傷つけられる。ある人にとっては小さなことでもある人にとっては多すぎる。結局、本の有用性は読む人の能力によって制限されるので、賢明な人は本の多さではなく、本に書かれていることの十分性を望むものだ、と諭します。

また、勉強のために本を探している人もいれば、家具で部屋を飾るように、喜びや見栄えのために本を探している人もいる。彼らは、本の真の価値を認めず、それを商品とみなす最悪の人たちだ、と手厳しい。

そういえば、昭和の時代、うちの応接にも百科事典が鎮座していました。三種の神器ではないけど、応接セット、ピアノ、百科事典などは、本来の意味ではあまり使われることのなかった、(少しばかりの)豊かさをかみしめるための商品だったような気もします。

さて、自分の器にあった良書にどうしたら巡り会えるのでしょう。それは、やはり良い師に恵まれるかどうかにかかっていると思います。娘をお山の幼稚園に通わせた、その偶然が、山下先生にこうしてラテン語やヨーロッパ古典文学を習うきっかけとなりました。この幸運を活かすためには、つまり「Multum non multa.(多読より精読を)」ですね。今、一番耳が痛い言葉です。(汗)

 

 

 

 

第9回課題(2019.8.31)

練習問題18-1

Patria mea tōtus hic mundus est.

(Sen.Ep.28.4)

出典:セネカ『倫理書簡集』

Seneca: Epistulae Morales, Liber III

 

【語彙と文法解析】

patria  -ae,  f 1. 祖国 2. 故郷
Patria は 第1変化名詞 patria の女性・単数の主格または呼格。
ここでは主格。

meus  -a  -um, adj poss 1. 私の、私に属する、私が所有する 2. 私にかかわる(以下略)
mea は 第1・第2変化形容詞(所有形容詞)meus の女性・単数・主格(呼格)または中性・複数・主格(呼格)
ここでは、patriaにかかるので、女性・単数・主格。

tōtus  -a  -um ( gen -tīus, dat -tī ),  adj 1. 全体(全部)の(以下略)
tōtus は 第1・第2変化形容詞(代名詞的形容詞) tōtus の男性・単数・主格

hic  haec  hoc,  adj,  pron demonstr 【 Ⅰ 】( adj ) 1. この、ここの、ここにある 2. 今の、現在の、最近の(以下略)【 Ⅱ 】( pron ) (以下略)
hic は 指示代名詞 hic の男性・単数・主格(呼格)
ここでは mundus にかかるので、主格。形容詞として使われている。

mundus  -i,  m 1. 化粧道具、装身具 2. 道具、備品 3. 世界、地球、4. 天、天空

 5. 人間、人類(以下略)
mondus は 第2変化名詞 mondus の 男性・単数・主格

sum:不定法はesse Ⅰ(存在詞)(略) Ⅱ(繋辞として) 1. 〜である(以下略)
estは、不規則動詞 sum の直説法能動態現在第三人称単数形。

 

【逐語訳】

 Patria(祖国は) mea(私の) tōtus(全体の) hic(この) mundus(世界) est(である).

 

【訳例】

私の祖国はこの全世界である。

 

(古典の鑑賞)

セネカ『倫理書簡集』の一節でした。
「わが生地はただ一つの片隅にあらず。わが祖国はこの世界なり」(「セネカ哲学全集5」より)(原文:'non sum uni angulo natus, patria mea totus hic mundus est'.)

その註によれば、デモリクトスの「賢い人にとっては、大地はすべて通行可能なのだ。
それというのも、この全世界が、善き魂の故郷にほかならぬからである。」(デモクリトス断片247)を念頭においたもの、ということでした。

この世界全体が「善き魂の故郷」という観念は、「すべての人間は普遍的理性(ロゴス)を分けもつ限りみな等しい同胞である」というストア哲学の主張の源流なのかも知れません。

ただ、この時代のストア哲学がコスモポリタニズムに傾斜し、処世術への傾向を強めていったことに、同時代のキケローは批判的だったのでしょうね。

 

 

 

 

第7回課題(2019.8.17)

練習問題14-3

Carpent tua pōma nepōtēs.

(Verg.Ecl.9.50)

出典:ウェルギリウス『牧歌』

P. VERGILI MARONIS ECLOGA NONA

 

【語彙と文法解析】

carpō -ere -psi -ptum, tr 1.(果実・花などを)摘む、もぎ取る 2. 引き裂く、ちぎる 3. (動物が牧草などを)食む 4. 進む 5. 享受する、利用する(以下略)
carpent は 第3変化動詞 carpōの直説法・能動態・未来の三人称・複数

tuus -a -um, adj pass 1. あなたの 2. あなたに好意的な(以下略)
tua は 所有形容詞(第1・第2変化形容詞)
ここでは、pōma に合わせて、中性・複数の対格

mum -i, n 1. 果物、果実 2. 果樹
pōma は 第2変化名詞 pōmumの中性・複数の主格(呼格)または対格
ここでは、対格。

nepōs -ōtis, m or f 1. 孫 2. 子孫(以下略)
nepōtēs は 第3変化名詞(子音幹名詞)nepōs の通性・複数の主格(呼格)または対格
ここでは、主格。

 

【逐語訳】

 Carpent(摘む) tua(あなたの) pōma(果実を) nepōtēs(子孫が).

 

【訳例】

あなたの子孫が果実を摘む(享受する)。

 

(古典の鑑賞)

 ウェルギリウス『牧歌』第九歌の一節でした。第一歌とこの第九歌はウェルギリウスと旧知の間であったというオクタヴィアヌス(のちのアウグストゥス)が進めていた土地没収に、自身の土地が含まれていたため、忠告として書かれたというのが通説のようでした。「あなたはカエサルのお陰を蒙っているのでしょう。それと同じようにあなたの子孫が利益を受けることになるのですから、いまのうちに善政(つまり土地没収をやめること)を行いなさい」(河津千代 註)の意で、かなり勇敢な発言と受け取れます。

原文は「Insere, Daphni, piros: carpent tua poma nepotes.」(ダブニスよ、梨に接ぎ木せよ。その実はおまえの子孫が取り入れよう。」(河津千代訳)

『牧歌』はヘクサメトロス(六歩格)を踏襲しているということですが、「長短短・長短短・長長・長長・長短短・長長」のような韻律を踏んでいるということらしい。分からないなりに、そのような韻律で読み下してみると、なるほど美しく感じるから不思議ですね。

 

 

 

動詞(直説法・能動態・未来)

英語の未来形は、will+動詞の原形を組み合わせるが、ラテン語では動詞の語尾変化で未来時称を表す。

 

未来形の作り方

第1、第2変化動詞と、第3、第4変化動詞とでは、未来形の作り方に違いがある。

 

未来形の活用

  第1変化動詞 第2変化動詞 第3変化動詞 第4変化動詞

単数1人称

amā-bō
vidē-bō
ag-am
audi-am
単数2人称
amā-bis
vidē-bis
ag-ēs
audi-ēs
単数3人称
amā-bit
vidē-bit
ag-et
audi-et
複数1人称
amā-bimus
vidē-bimus
ag-ēmus
audi-ēmus
複数2人称
amā-bitis
vidē-bitis
ag-ētis
audi-ētis
複数3人称
amā-bunt
vidē-bunt
ag-ent
audi-ent

 

 (直説法・能動態・未来の例文)

  • Vēritās līberābit vōs. 真理は汝等を自由にするだろう。
  • Ratiō mē dūcet, nōn fortūna. 理性が私を導くだろう、運命ではなく。

 

sumの未来

  単数 複数
1人称
erō
erimus
2人称
eris
eritis
3人称
erit
erunt

 

(不規則動詞の完了形のその他の例)

  • dō(与える):dabō, dabis, dabit, dabimus, dabitis, dabunt
  • eō(行く):ībō, ībis, ībit, ībimus, ībitis, ībunt