ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第1回課題(2021.7.3)

練習問題3-5

Poēta puellīs rosās dōnat.
(ポエータ プエッリース ロサース ドーナト

 

【学習課題】

名詞と形容詞1 1 第1変化名詞

 

【語彙と文法解析】

動詞は dōnat ですね。第1変化動詞 dōnō の 直説法・能動態・現在、三人称単数で、「彼(彼女、それ)は贈る」
(dōnō, dōnās, dōnat, dōnāmus, dōnātis, dōnant

Poēta は 第1変化名詞 poēta の男性・単数・主格で、文の主語。「詩人は」
(poēta, poētae, poētae, poētam, poētā, poētae, poētārum, poētīs, poētās , poētīs)

puellīs も 第1変化名詞 puella の 女性・複数・与格または奪格。ここでは dōnat の間接目的語で、与格。「少女らに」
(puella, puellae, puellae, puellam, puellā, puellae, puellārum, puellīs, puellās, puellīs)

rosās は第1変化名詞の代表格 rosa の女性・複数・対格。dōnat の直接目的語で、「バラを」
(rosa, rosae, rosae, rosam, rosā, rosae, rosārum, rosīs, rosās, rosīs)

 

【逐語訳】

Poēta(詩人は)puellīs(少女らに)rosās(バラを)dōnat(贈る).

 

【訳例】

詩人は少女らにバラを贈る。

 

(文法の楽しみ)

これは、英語の「This is a pen.」のような文なのでしょうね。第1変化名詞の格の違う名詞をぼんぼんぼんと並べることで、格変化によって、名詞の文の中での役割が示される、という説明のための文です。

「これはペンです。」という文は、普通はないのと同じで、この文に特段のメッセージはないのかも知れませんが、でも何となくこれからラテン文学の世界に一歩を足を踏み入れるんだなぁという感じが良く出ている文ですよね。

ラテン語名詞は、必ず性・数・格を持ちますが、日本語には、もともと名詞に性がなく、数に厳密さもなく、名詞そのものは変化せず、助詞によって他の語との関係を示す日本語とは、まったく文法が違います。

とは言え、私たちが学校で「未然・連用・終止・連体・仮定・命令」云々と動詞の活用などを学んだ国文法は、明治時代に、英米、とくにラテン語文法にならって体系化したものらしく、実は私たちの日本語も、ある意味、ラテン語二千年の歴史に大きな影響を受けているわけですね。

例えば、以下は、日本初の近代的国語辞典といわれる『言海』(大槻文彦、1889-91年刊)の復刻版(アマゾン Kindle版)にみられる記述です。(文語調を現代文にして、少し意訳しています。汗)

 

天爾遠波(てにをは)

 

(A)が、の
上に名詞を承けて下は動詞に係り、その動作を起こす所の名詞を特に挙げて示す。例えば、「誰が言う」「君が思う」「鶯の鳴く」の如く、動作を起こすは「誰」「君」「鶯」
〇これをラテン語にいわゆる名詞のNominative case.(主格)であるとするのは妥当とも言えず、日本語では主格は「鳥、鳴き」「花、落つ」など、てにをは無しで用いる。これに「が」「の」を加えて「鳥が鳴く」「花の落つる」と言えば、それを加えただけの意味は起こるのだが。

(B)の、が
名詞と名詞との関係を示す。(一)所有の意を示す「人の物」「君が世」など(二)由る所、係る所を示す「桜の花」「梅が香」「世の中」など
〇以上二つは、英語の Possesive, 又はラテン語のGenitive case.(属格)にあたる

(C)に
動詞の動作のいたるところを示す。(一)相対するものを示す「人に与う」「師に問う」
〇これはラテン語の格のDative.(与格)にあたる

(D)を
事物を処分する意を示し、必ず他動詞に係る。「書を読む」「字を記す」
〇これはラテン語のAccusative.あるいは英語のObjective case(対格)にあたる

(G)より、から
二つの間に移りゆく意を示す。「敵より奪う」「彼方より来る」「明日から若菜摘もうと」「明けぬから船を引きつつ上れども」
〇これはラテン語のAblative case.(奪格)にあたる

 

と、こんな感じです。これで呼格以外のラテン語の名詞の格が揃っています。これらの助詞は、のちに格助詞として整理されたようですね。

まあ、主格のところなど、いかにも無理に西洋の文法に日本語をあてはめていった感が出ていて、それはそれで面白いです。

いや、むしろ、漢語をはじめ、オランダ語、英語、ドイツ語、ラテン語と次々と他言語を吸収して、文化、芸術、政治、科学のあらゆる分野を母国語で表現し学べる環境を営々として築き上げた、先人達の気の遠くなるような努力に、感謝と尊敬の念を感じます。

「種まく人」ではないですが、そうした先人達の残してくれた資産を次の世代に引き継げるよう、少しでも貢献できたら、なんてことを感じさせてくれるのも、ラテン語学習なんですよね。

 

 

 

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