ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第5回課題(2019.7.14)

練習問題10-5

Facit indignātiō versum.

(Juv.1.79)

出典:「 Saturae 」(ユウェナーリス『風刺詩』)

Juvenal I

 

【語彙と文法解析】

faciō -cere, tr, intr Ⅰ .(tr)1. する、行う 2. 作る、形づくる 3. 建設する、設置する 4.作成する、書き上げる(中略) Ⅱ .(intr)1. 行動する、行なう 2. ふるまう(以下略)
facit は 第3変化動詞B faciō の 直説法・能動態・現在、3人称単数形

indignātiō -ōnis, f 1. 憤慨、義憤 2. 憤慨させるもの (以下略)
indignātiō は 第3変化名詞(子音幹名詞)の 女性・単数・主格または呼格

versus -ūs, m 1. (畑の)畝溝 2. 並んでいるもの、列 3. (書きものの)行;詩行(以下略)
versum は 第4変化名詞 versus の 男性・単数・対格

 

【逐語訳】

 Facit(作る) indignātiō(義憤が) versum(詩を).

 

【訳例】

義憤が詩を作る。

 

(古典の鑑賞)

ユウェナーリス『諷刺詩』の一節でした。『ローマ諷刺詩集』(国原吉之助訳・岩波文庫)では、「義憤が詩を書かせる」となっていました。英語だと「Anger makes me write poetry.」、ラテン語だと「indignātiō est facere mihi versum.」になるでしょうか。意訳と思われますが、訳者はこの訳が気に入っていたようで、解説でもこの詩人の言葉を再掲して、その詩風を紹介されていました。ローマの道徳的退廃と貴族の堕落に対する詩人の厭世的な攻撃は、実に実際的写実的で、嘲罵の言葉の洪水は、読んでいてあまり心地良くはない面もありますが、その修辞的技巧は天才的で、現代にも通じる多くの金言、警句が残されているようです。ちなみに「健全な身体に健全な精神が宿る」という言葉は、ナチスなどが用いたスローガンで、元になったユウェリナースの詩は、まったく逆に、「健全な精神」のあり方を追求するものであると、始めて知りました。