ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第19回課題(2020.4.4)

練習問題19-1

Mens cūjusque, is est quisque.
メンス・クイユスクゥェ・イス・エスト・クゥィスクゥェ

Cic.Rep.6.26

キケロー「国家について」

Cicero: de Re Publica VI

 

【学習課題】

 代名詞1 不定代名詞

 

【語彙と文法解析】

mens mentis, f ① 知性, 頭 ② 精神, 心.(以下略)
mensは第3変化名詞(i幹名詞)mensの主格(呼格)。ここでは主格。精神は。

quīsque quaeque quidque(pron), quodque(adj), pron, adj
各人, おのおの, だれでも, 何でも(しばしば sg が pl 扱いされる).
cūjusqueは不定代名詞quīsqueの男性・単数(のみ)・属格。各人の。
quīsqueは不定代名詞quīsqueの男性・単数(のみ)・主格、文の補語。各人

is ea id, pron, adj demonstr ① 彼, 彼女, それ.② ~, qui ...の人
isは指示代名詞 isで、ここでは補語のquisqueに合わせて男性・単数・主格。文の主語。

sum esse fuī(fut p futūrus, inf fut しばしば fore, subj impf しばしば forem), intr Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る(中略) Ⅱ (繋辞として)① ...である(以下略)
estは不規則動詞 sumの三人称・単数・現在。

 

【逐語訳】

Mens(精神) cūjusque(各人の), is(それは) est(である) quisque(各人).

 

【訳例】

各人の精神、それが各人である。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「国家について」第6巻・スキーピオーの夢 26節の一節でした。今回も『キケロー選集8』(岡道男訳、岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。

つい最近、課題で「スキーピオーの夢」を読んだ時、古代天文学が球形の地球を前提としていたことに驚いたのですが、今回は、時間のスケールの大きさです。

大アーフリカーヌスは続けて言います。「人間はふつう一年を太陽だけの、つまり一個の星の回帰によって計る。しかし、実際には、すべての星がいったん出発した元の地点へ戻り、(中略)それをほんとうに『一めぐりの年』と呼ぶことができる」(岡訳、以下同じ)と。

これはおそらく歳差年のことを言っていると思われるので、現代の天文学では、2万5800年となりますが、これによって「一年が満たされたと考えるように」と言うのです。この「一年」とは、世代間隔を大雑把に25年とすると、およそ1000世代となる、悠久の時間のスケールです。

そして、そのような永遠の時の中では、民衆の噂や賞賛などというものは、刹那に「後世の忘却によって消え去る」ものであって、「おまえの行為において希望を人間的な褒賞に託したりしてはならない」と説きます。

で、「死すべきものは(中略)身体であると心得るように。じじつ、その形が表すものはおまえではなく、各人の精神こそが各人である」と今回の課題となりました。

魂の不死や神の存在は、哲学の重要な課題ですが、不死なる神(魂)を宇宙の摂理と捉えるところに、最高の徳を見いだすキケローにとって、やはり魂の不死性の概念は、大変重要な概念なのだな、と改めて感じました。

 

 

 

 

第13回課題(2020.3.1)

練習問題14-5

Fit via vī; et hanc tibi viam dabit philosophia.
(フィト ウィア ウィー エト ハンク ティビ ウィアム ダビト ピロソピア)

Sen.Ep.37.3

セネカ「倫理書簡集」

Seneca: Epistulae Morales, Liber IV

 

【学習課題】

動詞2 直接法・能動態・未来

 

【語彙と文法解析】

fīō fierī factus sum, intr(facio の pass として用いられる)① なる 〈ut [ne, quin] +subj〉;起こる;なされる ② 生まれる, 作られる;任命される.
fitは第3変化動詞(semi-deponent)fiōの三人称・単数・現在。それは生ずる。

via -ae, f ① 道, 道路.(以下略)
vaiは第1変化名詞 viaの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。道は(前半の文の主語)
viamは単数・対格。道を。(dabitの直接目的語)

vīs (gen vīs(まれ), dat vī(まれ), acc vim, abl vī;pl nom, acc vīrēs(まれな別形 vīs), gen vīrium), f ① (人・動物・自然の物理的な)力, 強さ, 勢い(以下略)
vīは 第3変化名詞 vīsの女性・単数・奪格。力で。(手段の奪格)

et conj, adv Ⅰ (conj)① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も
 ③ そしてまったく, しかも ④ (物語で)そしてそれから
etはここでは接続詞。そして。

hic haec hoc, adj, pron demonstr Ⅰ (adj)① この, ここの, ここにある.(以下略)
hancはここでは指示形容詞。この。

tū (gen tuī, dat tibdummya130, acc, abl tē, pl nom, acc vōs, gen vestrum, vestrī, dat, abl vōbīs), pron pers (二人称)あなた, きみ, おまえ.
tibiは人称代名詞 egoの二人称・単数・与格。あなたに。(dabitの間接目的語)

dō dare dedī datum, tr ① 与える, 提供する, 授ける 〈alci alqd;alqd ad [in] alqd;alqd alci rei〉.(以下略)
dabitは第1変化(不規則)動詞dōの三人称・単数・未来。それは与えるだろう。

philosophia -ae, f ① 哲学.② 哲学の理論[学派].③ 人生観.
philosophiaは第1変化名詞 philosophiaの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。哲学は。(後半の文の主語)

 

【逐語訳】

Fit(生ずる) via(道は) vī(力で); et(そして) hanc(この) tibi(あなたに) viam(道を) dabit(与えるだろう) philosophia(哲学は).

 

【訳例】

道は力によって生ずる。そして、哲学はこの道をあなたに授けるだろう。

 

(古典の鑑賞)

セネカ「倫理書簡集」書簡37の一節でした。今回は『セネカ哲学全集5 倫理書簡集 Ⅰ 』(高橋宏幸訳、岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。「倫理書簡集」は勉強会の課題として、4回目です。

「倫理書簡集」は、セネカが皇帝ネローから逃れるように、隠遁生活に入り、ネローによって自殺を強いられるまでの最晩年の3年間に書かれた作品。ルーキーリウスに宛てた手紙の形をとっていますが、「死」を覚悟したセネカが、自分自身に向けて問うた「哲学の勧め」なのかも知れません。

書簡37は、不安からの解放、幸福、つまりは自由であるために、卑しく、埃にまみれ、奴隷根性で、残忍でもある様々な感情に打ち勝つためには、哲学のみが頼りであり、理性を導きとして、この道を進むことを勧めている。

自由とは何か。「いかなる状況にも、いかなる強制にも、いかなる事態にも隷従せず、運命を対等の立場に引き下ろすことだ。(中略)ならば、私が運命に屈することがあろうか。死も私の掌中にあるというのに。」(書簡51.9、高橋訳)

前半の「Fit via vī」はウェルギリウスの「アエネーイス」(2.494)からの引用で、ギリシャ軍がトロイアの城内になだれ込む、有名な場面です。哲学こそ、その自由への突破口なのだと、セネカ万感の思いで書き綴った、と私には思えました。

  

第7回課題(2020.1.25)

練習問題9-2

Varietās dēlectat.
ウァリエタース・デーレクタト

Cic.N.D.1.22

キケロー「神々の本性について」

Cicero: De Natura Deorum I

 

【語彙と文法解析】

varietās -ātis, f ① 二つ(以上)の色がある[現われている]こと.② 雑多, 多種多様, 変化に富むこと;変種.(以下略)
varietāsは第3変化名詞 varietāsの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。

dēlectō -āre -āvī -ātum, tr intens ① 喜ばせる, 楽しませる;魅する 〈alqm re〉.② (pass)楽しむ, 喜ぶ 〈re;+inf〉.
dēlectatは第3変化動詞 dēlectōの3人称・単数・現在。

 

【逐語訳】

Varietās(多様性は) dēlectat(〜を喜ばせる). 

 

【訳例】

多様性は(神々を)楽しませる。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「神々の本性について」第1章22節の一節でした。今回は『キケロー選集11』(山下太郎、五之治昌比呂訳 岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。今回も山下先生のご翻訳です。

「神々の本性について」は『善と悪の究極について』『トッスクルム荘対談集』などキケロー晩年の一連の哲学書のひとつ。この世界の真理や人間のあるべき姿を考えるのに、「神」という概念は軽々に扱えない、重い課題ですね。

そのためか、キケローはこの作品では、神についての自身の見解を示すかたちはとらず、「神々の本性にかんする哲学者の諸説を披露」することで、これを読む人が、神についての自身の見解に疑問の目を向けるよう促した、ということらしいです。

作品は、当代随一のエピクロース派の学者ウェッレイウス、ストア哲学研究の第一人者バルブス、キケロー自身が信奉するアカデーメイア派の論者コッタという、いずれ劣らぬ哲学の権威の対談として書かれています。

私も哲学好きなのですが、第1章を読んでみて、ウェッレイウスが、ギリシャの自然哲学者らを割と手厳しくバッサリと切り捨てているのは意外でした。エピクロス自身も、誰の教えも受けていないと豪語していたらしいので、こうしたところも、独りよがりな議論を嫌うキケローの気に済まないところなのかな、と思いました。

哲学的には、まず「宇宙の起源」を問い、何ものも「有らぬもの」からは生まれないと主張するエピクロス派のウェッレイウスは、永遠の時間の中で、神は、何故あるとき突然思いたって「宇宙を星座や光で飾ろうと」欲したのか、と問います。

で、それまで暗黒の中で暮らしていた神が、どうして、「天地を彩るさまざまな装いに心を楽しませるようになった」(山下訳)のか、と今回の課題のくだりとなりました。

 

以下は、前後の文を逐語訳です。

<逐語訳>

Si(もし…ならば), ut(〜するために) [deus](神は) ipse(自ら) melius(よりよく) habitaret(居住する),

antea(であれば、それより前は) videlicet(〜は自明である) tempore(時の中で) infinito(無限の) in(において) tenebris(暗闇) tamquam(〜のように) in(における) gurgustio(あばら屋) habitaverat(住んでいた).

Post(その後) autem(ところで): varietatene(多様性によって+〜のか) eum(彼は) delectari(楽しまされる) putamus(と我々は考える),

qua(ところのそれ(多様性)によって) caelum(天) et(と) terras(地) exornatas(飾られている) videmus(のを私たちが見る)?

 

第8回課題(2020.2.2)

練習問題10-4

Passibus ambiguīs Fortūna volūbilis errat.
パッシブス アンビグイース フォルチューナ ウォルービリス エッラト

Ov.Tr.5.8.15

オウィディウス「悲しみの歌」

Ovid: Ovid: Tristia V

 

【語彙と文法解析】

passus -ūs, m ① 歩み, 歩.
passibusは第4変化名詞passusの男性・複数・奪格

ambiguus -a -um, adj ① 動揺している, どっちつかずの, 疑っている.② 信頼しがたい, 不確実な, あてにならない.③ 両義にとれる, あいまいな.(以下略)
ambiguīs第1・第2変化形容詞 ambiguusの複数・与格または奪格。ここでは男性・複数・奪格。

fortūna -ae, f ① 運, 運命.② 幸運.③ 不幸, 不運.④ (F-)〘神話〙フォルトゥーナ《ローマの運命の女神;ギリシア神話の Tyche に当たる》.(以下略)
Fortūnaは第1変化名詞forūnaの主格(呼格)。

volūbilis -is -e, adj ① 回転する ② 転がりやすい;変わりやすい.(以下略)
volūbilisは第3変化形容詞 volūbilisの男性/女性・単数・主格(呼格)。ここでは、Fortūnaにかかり、女性・単数・主格。

errō -āre -āvī -ātum, intr(tr)① 放浪する, さまよう(以下略)
erratは第1変化動詞 errōの3人称・単数・現在。

【逐語訳】

 Passibus(歩みで) ambiguīs(ふらふらした) Fortūna(運命の女神は) volūbilis(変わりやすい) errat(さまよう).

 

【訳例】

移ろいやすい運命の女神はふらふらした足取りでさまよう。

 

(古典の鑑賞)

オウィディウス「悲しみの歌」第5巻第8歌の一節でした。今回は『悲しみの歌/黒海からの手紙−西洋古典叢書』(木村健治訳、京都大学学術出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

様々な憶測はあるものの、理由は定かになっていないそうですが、当代一流の人気詩人として活躍していたオウィディウスは、アウグストゥス帝によって、追放処分を受け、流刑地トミス(黒海沿岸の町。現在のルーマニアのコンスタンツァ市)に流されます。

流刑地に向かう旅は約1年かかったそうですが、「悲しみの歌」はその旅の途中から創作を始め、到着後も書き続けて、全5巻となりました。「黒海からの手紙」全4巻も書きあげています。

こうしたトミスでの詩作は、アウグストゥスへのローマ帰還の嘆願の意味もあったようですが、叶わず、オウィディウスはこの地に骨を埋めることに。

華々しい宮廷サロンから、流刑の身へ。抗いがたい運命に翻弄されたオウィディウスにとって、Fortūna(運命の女神)は特別な意味を持っていたのかも知れませんね。

課題文の詩歌は「第8歌 誹謗する輩に」。自分に対してあれこれ言ってくる者に対して、「皇帝がお怒りを鎮められれば、こんなこともありうると考えるがよい。(中略)お前がより重大な原因で追放されるところを私が見たりするというようなことが」(木村訳)と釘を刺すのですが、「その支配者であるあの方(アウグストゥス)以上に寛大な人はおられないからだ」云々というあたりが、詩文が皇帝に向けて書かれた嘆願書であることを、赤裸々に物語っているようです。

ところで、運命の女神と言えば、「後ろ髪がない」というのが有名ですが、「運命を操るための舵を携えており、運命が定まらないことを象徴する不安定な球体に乗り、幸運の逃げやすさを象徴する羽根の生えた靴を履き、幸福が満ちることのないことを象徴する底の抜けた壺を持っている」(Wikipedia)のだとか。

何気ない描写の隅々に、暗黙知が前提となっている、まさに学識の詩人であります。

 

Fortuna or Fortune

 Fortūna(運命の女神)(Wikipediaより)

 

 

第21回課題(2019.11.23)

練習問題39-5

Deinde ego illum dē suō regnō, ille mē dē nostrā rē pūblicā percontrātus est, multīsque verbīs ultrō citrōque habitīs  ille nōbīs cosumptus est diēs.

Cic.Pep.6.9
Cicerō, Dē Rē Pūblicā
キケロー「国家について」

Cicero: de Re Publica VI

 

【学習課題】

様々な構文 絶対的奪格

 

【語彙と文法解析】

deinde adv(副詞)① 次いで, それから.② その後, 以後.

ego pron pers(人称代名詞)私
egoは人称代名詞egoの一人称・主格または呼格
mēは人称代名詞egoの一人称・対格または奪格
nōbīsは人称代名詞egoの一人称・複数・与格または奪格。ここでは行為者の奪格

ille pron, adj demonstr(指示代名詞、指示形容詞)① あれ, それ, あの人, その人, 彼, 彼女 ② 以下のこと.③ 例の[周知の]人[もの, こと].
illumは指示代名詞 illeの男性・単数・対格
illeは指示代名詞 illeの男性・単数・主格

dē prep(前置詞)〈+abl〉① ...から(下へ・離れて)(中略) ⑩ (関連・限定)...に関して, ...について(以下略)

suus -a -um, adj poss(所有の)refl(再帰の)① 自分(たち)の, 彼[彼女, それ, 彼ら, それら](自身)の(以下略)
suōは第1・第2変化形容詞suusの男性・単数・与格または奪格、または中性・単数・与格または奪格。ここではregnōにかかる中性・単数・奪格。

regnum -ī, n. ① 王であること, 王権, 王位.(中略)④ 王国;王領, 領土.(以下略)
regnōは第2変化名詞regnumの中性・単数・与格または奪格。ここでは、dē の要求する奪格。

noster -tra -trum, adj poss(所有形容詞)① 我々の, 我々に属する, 我々による;我々に対する.② =meus.
nostrāは第1・第2変化形容詞noster(主格は-er)の女性・単数・奪格

rēs reī, f ① 物, 物事, 事柄.(以下略)
rēは第5変化名詞rēsの女性・単数・奪格

pūblicus -a -um, adj ① 国民(全体)の, 国家の res publica‖=respublica.(以下略)
pūblicāは第1・第2変化形容詞pūblicusの女性・単数・奪格

percontor -ārī -ātus sum, tr(他動詞) dep(形式受動相動詞)質問する, 尋問する, 調べる
percontātus estは第1変化動詞percontorの完了分詞、男性・単数・主格。
estとともに、percontorの直説法(・受動態)・完了、3人称単数を作ります(形式受動態動詞ゆえとくに受動態と断らなくてもよい)。

multus -a -um, adj ① 多数の, 多くの, 豊富な.(以下略)
multīsqueは第1・第2変化形容詞multusの女性・複数・与格または奪格、あるいは中性・複数・与格または奪格にqueがついた形。-que...-queで〜も〜も。ここではverbīsに合わせて中性・複数・奪格。

verbum -ī, n. ① ことば, 語, 単語(以下略)
verbīsは第2変化名詞verbumの中性・複数・与格または奪格。ここでは奪格。

ultrō adv ① 向こう側へ, 越えて(以下略)

citrō adv こちら側に
ultrō citrōqueで、あちらこちらに;両側に;相互に.

habeō -ēre habuī habitum, tr(intr)① 持つ, 所有する.(以下略)
habitusはhabeōの完了分詞
habitīs は第1・第2変化形容詞habitusの女性・複数・与格または奪格、あるいは中性・複数・与格または奪格。ここでは中性・複数・奪格。
verbīs...habitīsは「絶対的奪格」。「言葉がもたれて」。日本語にする場合は「言葉を交わして」等。

consūmō -ere -sumpsī -sumptum, tr ① 使う, 費やす(以下略)
consumptus はconsūmōの完了分詞、男性・単数・主格。estとともにconsūmōの直説法・受動態・完了、3人称単数を作る。「費やされた」。

illeは指示形容詞ille,illa,illud(あの、その)の男性・単数・主格。diēsにかかる。
diēsは男性、女性両方の扱いを受けますが、この文では男性名詞として使われています。consumptusの形でわかります

diēs -ēī, m(f)① 日, 一日(以下略)
diēsは第5変化名詞diēsの男性(女性)の単数・主格(呼格)または複数・主格(呼格)または複数・対格

 

【逐語訳】

 Deinde(それから) ego(私は) illum(彼に) dē(〜について) suō(彼の) regnō(王国), ille(彼は) mē(私に) dē(〜について) nostrā(我々の) rē pūblicā(国家のこと) percontrātus est(詳しく質問した), multīsque verbīs(多くの言葉が) ultrō citrōque(相互に) habitīs(持たれて) ille(その) nōbīs(我々によって) cosumptus est(費やされた) diēs(一日が).

 

【訳例】

 それから私は彼の王国について、彼は私に我々の国家のことについて詳しく質問した。互いに多くの言葉を費やして、一日を過ごした。

 

(古典の鑑賞)

キケロー「国家について」第6巻・スキーピオーの夢の冒頭の一節でした。今回も『 キケロー選集 8』(岡道男訳、岩波書店)を図書館で借りてきて読んでみました。

「スキーピオーの夢」は、山下先生が『ラテン語を読む キケロー「スキーピオーの夢」』(ペレ出版)を著されているので、前から作品は知っているのですが、通して読んでみたのは今回が初めてです。

読んでみて、まず舞台設定の壮大さに驚きました。ローマの英雄スキーピオー(147年、134年の執政官、スキーピオー・アエミリアヌス)が、夢の中で、義祖父のスキーピオー・アーフリカーヌスから、この世界の真理と国家のあるべき姿、指導者としての心得などについて、話を聞いているのですが、なんとそこは宇宙空間。星をちりばめた天の高みから、球形の地球をはるかに見下ろしています。現代の私たちには、見慣れた光景ですが、改めて古代天文学の水準の高さには驚かされます。

スキーピオーの夢は、第6巻9章から始まりますが、冒頭は、ラエリウスらそれまでの討論メンバーとの会話の続きです。スキーピオーが、大スキーピオーの友人だった北アフリカヌミディアの王マシニッサを訪ねた場面で、「…その日は、わたしたちが互いに多くの話を交わすうちに過ぎた。」と今回の課題のくだりとなりました。

王の歓迎の宴も終わり、旅の疲れもあって、スキーピオーは深い眠りに。夢の中に大スキーピオーが現れて語り始める、という設定でした。

課題に取り組んでいるときは、「多くの言葉を費やして、一日を過ごした」その話の内容がこれから展開されるのかなと思いましたが、大スキーピオーの霊を登場させるための、枕だったんですね。

 

 

人民の安全は最高の法であるべし

Ollis salus populi suprema lex esto.

 

olle olla(女性)ollud(中性),determiner(限定詞)そのもの(たち)
olle は ille の古い綴り(Archaic)。ollīs は olle の性別無し・複数・与格(〜にとって)または奪格(〜において)。ここでは与格。

salūs -ūtis, f 安全
salusは第3変化名詞salūsの主格(〜は)または呼格(〜よ)

populus -i, m 国民
poluliは第2変化名詞polulusの男性・単数・属格または複数・主格(呼格)

suprēmus -a(女性) -um(中性), adj(形容詞) superl(最上級の)最上の
supremaは第1・第2変化形容詞suprēmusの女性・単数・主格(呼格)または奪格、中性・複数・主格(呼格)または対格

lex lēgis(属格),f 法
lexは第3変化名詞lexの女性・単数・主格(呼格)

sum esse不定法) fuī(分詞), intr(自動詞)〜である
estoは不規則動詞sumの命令法・能動態・未来・二人称(三人称)・単数

 

【逐語訳】

Ollis(〜にとって)salus(安全は)populi(国民の)suprema(最上の)lex(法は)esto(〜である必要がある).

 

【訳例】

彼らにとって国民の安全は最上の法でなければならない。

 

(古典に親しむ)

コロナ感染から復帰したイギリス首相ボリス・ジョンソン氏が「新たなモットー」として表明した言葉から。キケロー「法律について」第3巻8節の一節でした。たまたま、「キケロー選集8」(岡道男訳、岩波書店)が手元にあったので読んでみました。

「人民の福利を最高の法とせよ」は法学では良く知られた言葉のようですが、私などは当然、初めて聞く言葉でした。

キケローの「法律について」は「国家について」と対をなす著作で、理想の国家としてのローマ国家において、キケローの考える「自然の法」がどのように実現されるべきかを論じています。

「自然の法(lex naturae)」とは、「正しい行いを勧め、過ちを思いとどまらせる力」で、天地を守り支配する神ユッピテルと同じ世代に属するもの、つまり国民や国家の年代より前から存在する普遍的な法であると考えます。

で、理想国家ローマは、これを成文化した法律(書かれた理性)によって治められるべきであって、たとえ現実に存在する法律であっても、この性質をそなえていないものは、決して法律ではないとするわけです。

3節は、官職に関する法律を論じていますが、戦地において最高の権限を持つ、執政官らといえども、「国民の安全が最高の法律でなければならない」と、今回の名句のくだりとなりました。

ボリス・ジョンソン氏は家庭でもラテン語を話す教養人として知られているそうですが、国民もそれを解するのですから、欧米におけるラテン文化の地位というは、確固たるものがありますね。

日本も、これから憲法改正の動きで、法について深く考えてみる必要があるでしょう。法とは何か、キケローの言葉を頼りに、自分なりに考えてみたいと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第20回課題(2019.11.16)

練習問題38-1

Imperātōrem stantem morī oportet.

Suet.Ves.24
スエートーニウス(Suētōnius)「ローマ皇帝伝ウェスパシアヌス

Divus Vespasian

 

【語彙と文法解析】

imperātor -ōris(属格), m(男性) ① 指揮者, 支配者.② 最高司令官.③ (帝政ローマの)皇帝.
Imperātōrem は 第3変化名詞 imperātor の男性・単数・対格

===

stō -āre(不定法)stetī(完了)statum(スピーヌム), intr(自動詞)① 立つ, 立っている.(以下略)
stantem は第1変化動詞 stō の現在分詞 stans の男性女性同形・単数・対格。ここでは imperātor に合わせて男性。

===

morior morī(不定法)mortuus sum(分詞), intr dep(形式受動相動詞) ① 死ぬ.(以下略)
morī は 形式受動相動詞 morior の不定法。

===

oportet -ēre(不定法)-tuit(完了), intr(自動詞)impers(非人称の)
① ...するのが当然である, ...すべきである 〈+inf;+acc c.inf;+subj〉.(以下略)
oportet は 第2変化動詞 oportet の 3人称・単数・現在。

 

【逐語訳】

Imperātōrem(最高司令官は)stantem(立ちながら)morī(死ぬことが)oportet(当然である). 

 

【訳例】

最高司令官は立ったまま死なねばならない。

 

(古典の鑑賞)

スエトニウス『ローマ皇帝伝』第八巻「ウェスパシアヌス」の一節でした。今回は、『ローマ皇帝伝(下)』(国原吉之助訳、岩波文庫)を図書館で借りてきて、読んでみました。

スエトニウスが生まれた西暦70年は、カエサルの血をひく最後の皇帝ネロが亡くなった2年後。本書の原題も『カエサルたちの伝記八巻』で、いわゆる「カエサル家」の歴代皇帝の伝記ものだったようです。解説によれば、実は、第七巻(内乱時代)・第八巻(ウェスパシアヌスとその二人の子)は当初の構想にはなく、思いの外好評だったので、無理矢理付け足されたのでは、とありました。

さて、このウェスパシアヌス、内乱をおさえ、ポスト・カエサル家ともいえるフラウィウス家の最初の皇帝となったわけですが、自身は騎士階級の名も無い家柄のため、皇帝としての権威を高めることに努めたようです。

64年の大火とその後の内戦で荒廃していたローマの再興には、謹厳実直で親しみが持てる人柄、軍事と財務にも明るかったウェスパシアヌスはうってつけの皇帝で、皇帝財産の確立、有名な「小便税」の導入などで財政再建を図る一方、お金は貯め込まず、コロシウムの建設や教育制度の整備など、善政によって、市民の心をつかんでいったとか。

その甲斐あって、10年の統治後、息子のティトゥス帝への権力委譲は、何の問題も無く行われたようです。60歳で帝位についたウェスパシアヌスは、「私の後を継ぐのは息子たちだ」といってはばからなかったそうですが、それも無用な権力闘争を避け、治世の安定を望んだからかも知れません。

病に倒れ、伏してからも、最高司令官としての務めをいつものごとく果たし、気絶するほどの腹痛にあっても、「最高司令官は立ったまま死なねばならぬ」と言って、両脇を抱きかかえられて亡くなった、というのが今回の課題のくだりでした。

身を以て、帝国を支えようとした、苦労人、市民皇帝らしいエピソードですね。