ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第8回課題(2020.2.2)

練習問題10-4

Passibus ambiguīs Fortūna volūbilis errat.
パッシブス アンビグイース フォルチューナ ウォルービリス エッラト

Ov.Tr.5.8.15

オウィディウス「悲しみの歌」

Ovid: Ovid: Tristia V

 

【語彙と文法解析】

passus -ūs, m ① 歩み, 歩.
passibusは第4変化名詞passusの男性・複数・奪格

ambiguus -a -um, adj ① 動揺している, どっちつかずの, 疑っている.② 信頼しがたい, 不確実な, あてにならない.③ 両義にとれる, あいまいな.(以下略)
ambiguīs第1・第2変化形容詞 ambiguusの複数・与格または奪格。ここでは男性・複数・奪格。

fortūna -ae, f ① 運, 運命.② 幸運.③ 不幸, 不運.④ (F-)〘神話〙フォルトゥーナ《ローマの運命の女神;ギリシア神話の Tyche に当たる》.(以下略)
Fortūnaは第1変化名詞forūnaの主格(呼格)。

volūbilis -is -e, adj ① 回転する ② 転がりやすい;変わりやすい.(以下略)
volūbilisは第3変化形容詞 volūbilisの男性/女性・単数・主格(呼格)。ここでは、Fortūnaにかかり、女性・単数・主格。

errō -āre -āvī -ātum, intr(tr)① 放浪する, さまよう(以下略)
erratは第1変化動詞 errōの3人称・単数・現在。

【逐語訳】

 Passibus(歩みで) ambiguīs(ふらふらした) Fortūna(運命の女神は) volūbilis(変わりやすい) errat(さまよう).

 

【訳例】

移ろいやすい運命の女神はふらふらした足取りでさまよう。

 

(古典の鑑賞)

オウィディウス「悲しみの歌」第5巻第8歌の一節でした。今回は『悲しみの歌/黒海からの手紙−西洋古典叢書』(木村健治訳、京都大学学術出版会)を図書館で借りてきて読んでみました。

様々な憶測はあるものの、理由は定かになっていないそうですが、当代一流の人気詩人として活躍していたオウィディウスは、アウグストゥス帝によって、追放処分を受け、流刑地トミス(黒海沿岸の町。現在のルーマニアのコンスタンツァ市)に流されます。

流刑地に向かう旅は約1年かかったそうですが、「悲しみの歌」はその旅の途中から創作を始め、到着後も書き続けて、全5巻となりました。「黒海からの手紙」全4巻も書きあげています。

こうしたトミスでの詩作は、アウグストゥスへのローマ帰還の嘆願の意味もあったようですが、叶わず、オウィディウスはこの地に骨を埋めることに。

華々しい宮廷サロンから、流刑の身へ。抗いがたい運命に翻弄されたオウィディウスにとって、Fortūna(運命の女神)は特別な意味を持っていたのかも知れませんね。

課題文の詩歌は「第8歌 誹謗する輩に」。自分に対してあれこれ言ってくる者に対して、「皇帝がお怒りを鎮められれば、こんなこともありうると考えるがよい。(中略)お前がより重大な原因で追放されるところを私が見たりするというようなことが」(木村訳)と釘を刺すのですが、「その支配者であるあの方(アウグストゥス)以上に寛大な人はおられないからだ」云々というあたりが、詩文が皇帝に向けて書かれた嘆願書であることを、赤裸々に物語っているようです。

ところで、運命の女神と言えば、「後ろ髪がない」というのが有名ですが、「運命を操るための舵を携えており、運命が定まらないことを象徴する不安定な球体に乗り、幸運の逃げやすさを象徴する羽根の生えた靴を履き、幸福が満ちることのないことを象徴する底の抜けた壺を持っている」(Wikipedia)のだとか。

何気ない描写の隅々に、暗黙知が前提となっている、まさに学識の詩人であります。

 

Fortuna or Fortune

 Fortūna(運命の女神)(Wikipediaより)