ラテン語な日々

〜「しっかり学ぶ初級ラテン語」学習ノート〜

第20回課題(2019.11.16)

練習問題38-1

Imperātōrem stantem morī oportet.

Suet.Ves.24
スエートーニウス(Suētōnius)「ローマ皇帝伝ウェスパシアヌス

Divus Vespasian

 

【語彙と文法解析】

imperātor -ōris(属格), m(男性) ① 指揮者, 支配者.② 最高司令官.③ (帝政ローマの)皇帝.
Imperātōrem は 第3変化名詞 imperātor の男性・単数・対格

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stō -āre(不定法)stetī(完了)statum(スピーヌム), intr(自動詞)① 立つ, 立っている.(以下略)
stantem は第1変化動詞 stō の現在分詞 stans の男性女性同形・単数・対格。ここでは imperātor に合わせて男性。

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morior morī(不定法)mortuus sum(分詞), intr dep(形式受動相動詞) ① 死ぬ.(以下略)
morī は 形式受動相動詞 morior の不定法。

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oportet -ēre(不定法)-tuit(完了), intr(自動詞)impers(非人称の)
① ...するのが当然である, ...すべきである 〈+inf;+acc c.inf;+subj〉.(以下略)
oportet は 第2変化動詞 oportet の 3人称・単数・現在。

 

【逐語訳】

Imperātōrem(最高司令官は)stantem(立ちながら)morī(死ぬことが)oportet(当然である). 

 

【訳例】

最高司令官は立ったまま死なねばならない。

 

(古典の鑑賞)

スエトニウス『ローマ皇帝伝』第八巻「ウェスパシアヌス」の一節でした。今回は、『ローマ皇帝伝(下)』(国原吉之助訳、岩波文庫)を図書館で借りてきて、読んでみました。

スエトニウスが生まれた西暦70年は、カエサルの血をひく最後の皇帝ネロが亡くなった2年後。本書の原題も『カエサルたちの伝記八巻』で、いわゆる「カエサル家」の歴代皇帝の伝記ものだったようです。解説によれば、実は、第七巻(内乱時代)・第八巻(ウェスパシアヌスとその二人の子)は当初の構想にはなく、思いの外好評だったので、無理矢理付け足されたのでは、とありました。

さて、このウェスパシアヌス、内乱をおさえ、ポスト・カエサル家ともいえるフラウィウス家の最初の皇帝となったわけですが、自身は騎士階級の名も無い家柄のため、皇帝としての権威を高めることに努めたようです。

64年の大火とその後の内戦で荒廃していたローマの再興には、謹厳実直で親しみが持てる人柄、軍事と財務にも明るかったウェスパシアヌスはうってつけの皇帝で、皇帝財産の確立、有名な「小便税」の導入などで財政再建を図る一方、お金は貯め込まず、コロシウムの建設や教育制度の整備など、善政によって、市民の心をつかんでいったとか。

その甲斐あって、10年の統治後、息子のティトゥス帝への権力委譲は、何の問題も無く行われたようです。60歳で帝位についたウェスパシアヌスは、「私の後を継ぐのは息子たちだ」といってはばからなかったそうですが、それも無用な権力闘争を避け、治世の安定を望んだからかも知れません。

病に倒れ、伏してからも、最高司令官としての務めをいつものごとく果たし、気絶するほどの腹痛にあっても、「最高司令官は立ったまま死なねばならぬ」と言って、両脇を抱きかかえられて亡くなった、というのが今回の課題のくだりでした。

身を以て、帝国を支えようとした、苦労人、市民皇帝らしいエピソードですね。