練習問題20-3
Virtūs est vitium fugere et sapientia prīma stultitiā caruisse.
(ウィルトゥース・エスト・ウィティウム・フゲレ・エト・サピエンティア・プリーマ・ストゥルティティアー・カルイッセ)
Hor.Ep.1.1.41
ホラーティウス「書簡詩」
【学習課題】
動詞3 直接法・能動態・完了
【語彙と文法解析】
virtūs -ūtis, f ① 男らしさ, 雄々しさ.② 勇気, 果断;(pl)英雄的行為.③ 美徳, 高潔;卓越.④ (V-)(神格化されて)美徳の女神.(以下略)
Virtūs は第3変化名詞virtūsの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。
sum esse fuī , intr Ⅰ (存在詞)① ⒜ 存在する, ある, 居る(中略) Ⅱ (繋辞として)① ...である (以下略)
est は不規則動詞sumの直説法・能動態・三人称・単数・現在。
vitium -ī, n ① 欠点, 欠陥 ② 過誤, 過失 ③ 悪徳, 不品行 (以下略)
vitium は第2変化名詞vitiumの中性・単数・主格(呼格)または対格。ここではfugereの補語で、対格。
fugiō -gere fūgī(fut p fugitūrus), intr, tr Ⅰ (intr)① 逃げる, 逃走する, 走り去る(中略) Ⅱ (tr)① (...から)逃げる, のがれる.② 避ける, 遠ざける (以下略)
fugere は第3変化動詞B fugiō の不定法・一人称・単数。〜を避けること。
et conj, adv Ⅰ (conj)① ...と[そして]... ② (補足的に)そして[さらに]...も(以下略)
sapientia -ae, f ① 知恵, 分別.② 英知
sapientia は第1変化名詞sapientiaの女性・単数・主格(呼格)。ここでは主格。知恵は。
prīmus -a -um, adj superl ① 先頭の, 最前部の, 先端の.② 第一の ③ 最初の, 初めの, 冒頭の, 発端の ④ 主要な, 最も顕著な, 卓越した, 一流の.
prīma は第1・第2変化形容詞prīmusの女性・単数・主格(呼格)または中性・複数・主格(呼格)か対格。ここでは、sapientiaにかかり女性・単数・主格。最初の。
stultitia -ae, f ① 愚かしさ, 愚鈍.② ばかげたこと;愚行.
stultitiā は第1変化名詞stultitiaの女性・単数・奪格で、caruisseの補語。
careō -ēre -ruī -ritum, intr〈+abl〉① ...がない, 欠けている ② 遠ざける, 控える, なしですます ③ (危険・苦悩などを)免れる, 逃れる.
caruisse は第2変化動詞careōの不定法・能動態・完了・二人称・単数。〜がないこと。
【逐語訳】
Virtūs(美徳は) est(〜である) vitium(悪徳を) fugere(避けること) et(そして) sapientia(知恵は) prīma(最初の) stultitiā(愚かしさ) caruisse(<奪格>がないこと).
【訳例】
美徳とは悪徳を避けることであり、そして最初の知恵は愚かしさがないことである。
(古典の鑑賞)
ホラーティウス「書簡詩」第1巻第1歌の一節でした。今回も『書簡詩』(高橋宏幸訳・講談社学術文庫)を図書館で借りてきて読んでみました。
韻文による書簡はギリシャ文学には先例がないとのことで、ヘクサメトロスによる書簡詩はホラーティウスの独創らしい。(「ラテン文学を学ぶ人のために」)
最近、韻律に少し関心が出てきたので、どれどれ、とちょっと考えてみよう。「長短短・長短短・長長・長短短・長短短・長長」とかになればいいんですよね。
原文の改行は「The Latin Library」では prīma の後に来ていましたが、上手くいかないので、stultitiā で改行するとして、1行目は8単語、6韻脚。これでヘクサメトロスになってる! と思ったら、最初が「長長短」になってる。しかも、次行は「短長短」で始まってる? あれ〜、やっぱり難しそう。
Vir-tūs est | ui-ti-um | fu-ge-re et | sa-pi-en-tia | prī-ma stul | -ti-ti-ā
長 長 短 長 短 短 長 長 長 短 短 長 短 短 長 長
ca-ruis-se. (以下略)
短 長 短
※後日追記
討ち死にしました(笑)。山下先生に校正していただきました。
Virtūs | est uiti | um fuge r(e( et sapi | entia | prīma
stultiti | ā caru | isse上のように二行に分かれます。
※ここまで
ともあれ、平易でバランス感覚に優れたホラーティウスの人生訓や哲学の勧めも、抒情詩人としての自信を隠さないホラーティウスらしく、実は技巧を凝らした、意欲的な創作ということなのだと思います。
ところで、「諷刺詩」からの課題に取り組んでみようかなと思い、ちょうど手元に『ホラティウス全集』(鈴木一郎訳・玉川大学出版部)もあるので、訳を比べてみました。
「美徳の第一歩は悪徳からの脱却、知恵の第一歩は愚昧の排除です。」(高橋訳)
「悪の世界から遠ざかり、愚行を避ければ、それだけで先ず哲学の始まりです。」(鈴木訳)
高橋訳では、「美徳の<第一歩は>」の代名詞が省略されているという解釈でしょう。原文に忠実な翻訳ですね。鈴木訳の「哲学の始まり」は、多少意訳と言えるかも知れません。
他の訳を参照すると、自分のラテン語の語彙と文法解析の勘違いに気づけるかも知れないし、他の訳者のご苦労によって、文脈を追うことも出来るので、大変参考になりますね。何事につけですが、先人に感謝、です。